企業の財務諸表を読み解くときに、必ず目にするのが「会計方針(かいけいほうしん)」という言葉。
実はこの「会計方針」は、企業の利益額や財務状況の見え方を大きく左右する、とても重要な要素です。
この記事では、会計実務のプロの視点から「会計方針とは何か」「どんな種類があるのか」「変更する際のルール」までを、初心者にもわかりやすく解説します。
🔹 会計方針とは?
会計方針とは、財務諸表を作成する際に企業が採用する会計処理の原則や手続きのことをいいます。
(出典:過年度遡及会計基準第4項(1))
例えば、同じ「棚卸資産(在庫)」でも、
-
「先入先出法」で評価するか
-
「移動平均法」で評価するか
によって、期末の利益額が変わってくる場合があります。
そのため、財務諸表を利用する投資家や金融機関などの関係者が「どの方法で計算されているのか」を理解できるように、重要な会計方針は注記(財務諸表の脚注)で開示する必要があります。
🔹 代表的な会計方針の例
会計方針にはさまざまな項目がありますが、代表的なものは次の通りです。
| 項目 | 内容の例 |
|---|---|
| ① 有価証券の評価基準・評価方法 | 時価法や取得原価法など |
| ② 棚卸資産の評価基準・評価方法 | 先入先出法、総平均法など |
| ③ 固定資産の減価償却方法 | 定額法・定率法など |
| ④ 繰延資産の処理方法 | 開業費・開発費の償却基準 |
| ⑤ 外貨建資産・負債の換算基準 | 期末レート法など |
| ⑥ 引当金の計上基準 | 貸倒引当金、賞与引当金など |
| ⑦ 費用・収益の計上基準 | 発生主義・現金主義など |
👉 これらは企業が自由に選択できる部分が多く、どの方法を採用するかで利益の見え方が異なります。
したがって、会計方針は企業の個性を表すものとも言えるのです。
🔹 会計方針の変更とは?
企業は原則として、一度採用した会計方針を継続して適用しなければなりません。
(これは「継続性の原則」と呼ばれます。)
しかし、例外的に「会計方針を変更」できる場合があります。
過年度遡及会計基準第4項(5)によると、会計方針の変更とは:
「従来採用していた一般に公正妥当と認められた会計方針から、他の一般に公正妥当と認められた会計方針に変更すること」
と定義されています。
✅ 会計方針を変更できる条件(過年度遡及適用指針第6項)
次の 2つの要件 を満たす場合に限り、会計方針の変更が認められます。
-
企業の事業内容や経営環境の変化に対応するため
→ 例:新しい業種へ進出したため、より適切な在庫評価法に変える場合 -
より適切に財務諸表へ反映するため
→ 例:実態に即した会計処理へ改善する場合
変更を行った場合は、その理由と影響額を注記する必要があります。
🔹 会計方針変更の実例
たとえば、これまで「定率法」で減価償却していた企業が、「定額法」へ変更するケース。
この場合、変更理由として以下のように注記します。
「設備投資の更新サイクルや使用実態を考慮し、費用配分の適正性を高めるため、定額法へ変更した。」
さらに、変更による影響額(当期純利益の増減など)も開示しなければなりません。
これにより、投資家や利害関係者が企業の数字の変動を正しく理解できるようになります。
🔹 まとめ:会計方針は企業の「会計上の約束」
会計方針は、企業が「どんなルールで数字を作っているか」を示す重要な情報です。
特に投資家や経営者にとっては、単なる注記ではなく、企業の信頼性を支える会計上の約束でもあります。
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