時価純資産方式とは

時価純資産方式とは?企業価値評価の基本と簿価純資産方式との違い

企業の買収(M&A)や事業承継の場面では、「この会社はいくらの価値があるのか?」という企業価値評価が重要になります。
その評価方法のひとつが、時価純資産方式(じかじゅんしさんほうしき)です。

この記事では、会計の実務でもよく使われる「時価純資産方式」について、初心者の方にもわかりやすく解説します。
また、似た考え方である「簿価純資産方式」との違いや、企業価値評価におけるコストアプローチの考え方もあわせて紹介します。

時価純資産方式とは?

時価純資産方式とは、企業価値を資産の時価(=現在の実際の価値)を基に計算する評価方法の一つです。
これは、「コストアプローチ」と呼ばれる企業価値算定の考え方に分類されます。

具体的には、次の手順で評価を行います。

  1. 企業の貸借対照表(バランスシート)を基に、資産を時価評価に修正

  2. 簿外負債(帳簿に載っていない将来負担など)を加味して純資産額を再計算

  3. その結果得られた純資産額を発行済株式数で割ることで、1株あたりの株価を算定

つまり、「会社が今この瞬間にすべての資産を時価で評価し、負債を精算したらどれくらいの価値が残るか」を表すのが時価純資産方式です。

簿価純資産方式との違い

もう一つよく聞くのが「簿価純資産方式」です。
これは、帳簿上の資産額(簿価)をそのまま企業価値とみなす非常にシンプルな方法です。

簿価純資産方式の計算方法

簿価純資産 = 貸借対照表上の自己資本
1株あたりの株価 = 自己資本 ÷ 発行済株式数

しかし、簿価はあくまで取得時点の金額であり、実際の時価とは異なることが多い点に注意が必要です。
たとえば、購入から年数が経過した不動産や、含み益・含み損を抱えた有価証券などは、帳簿価額と実際の市場価値が大きく乖離していることがあります。

そのため、より正確な企業価値を算出したい場合には、簿価ではなく時価純資産方式を用いるのが一般的です。

時価純資産方式の算定方法と調整項目

時価純資産方式では、企業の資産を「今の価値」に修正して計算します。
主な調整項目の例は次のとおりです。

資産項目 時価評価・調整のポイント
売掛金 回収不能の不良債権を控除
棚卸資産 不良在庫(陳腐化品など)を除外
不動産 公示価格・固定資産税評価額・路線価などを参考に再評価
有価証券 時価ベースで再計算(含み損・含み益を反映)
簿外負債 未払いの退職給付や保証債務などを加味

このような時価調整を行うことで、帳簿上の数字よりも現実に近い企業価値を求めることができます。

コストアプローチとは?清算価値を重視する考え方

時価純資産方式や簿価純資産方式はいずれも、コストアプローチ(原価法)に分類されます。
コストアプローチは、会社を清算した場合の価値
、つまり「いま会社の資産をすべて売却したらいくらになるか」を基にした評価方法です。

そのため、事業継続を前提とする「収益性の評価」ではなく、あくまで解散・清算ベースの価値を算出するのが特徴です。

他の企業価値評価法との比較

企業価値評価には、コストアプローチのほかに次のような方法もあります。

アプローチ 評価方法 特徴
マーケットアプローチ 類似企業や同業他社との比較 市場価格を反映しやすい
インカムアプローチ 将来の収益(キャッシュフロー)を現在価値に割引 事業の稼ぐ力を重視

時価純資産方式は、これらの中でももっとも保守的で客観的な評価方法といえます。
特に、赤字企業や清算を前提とした評価、または含み損・含み益の大きい資産を持つ企業の評価で有効です。

まとめ:時価純資産方式は「資産の実態」を反映する評価法

時価純資産方式は、企業が保有する資産を実際の時価で見直し、負債を差し引いて算出する実態ベースの企業価値評価法です。
簿価純資産方式よりも現実に即しており、M&Aや事業承継などの場面でよく利用されます。

ただし、資産評価の専門知識や市場データの入手が必要なため、実務では公認会計士や税理士によるサポートが重要です。

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