固定資産の減価償却を理解するうえで欠かせない概念が「残存価額(ざんぞんかがく)」です。
経理初心者の方だけでなく、個人事業主や中小企業経営者でも、減価償却の計算や会計処理の中で一度は耳にする重要なキーワードといえます。
この記事では、残存価額の意味、現在価値との違い、実務での扱い、そして税制改正による制度の変化まで、わかりやすく解説していきます。
残存価額とは?基本の意味をやさしく解説
残存価額とは、固定資産が法定耐用年数を経過したあとに残ると見込まれる価値のことを指します。
減価償却は、固定資産の取得費用を耐用年数にわたって費用配分していく仕組みですが、耐用年数が満了したからといって、資産が完全に無価値になるわけではありません。
● 実際には価値が残るケースも多い
例えば、
・老朽化しているが改装すれば使える「店舗」
・耐用年数を超えても使用できる「事務所ビル」
・中古市場で売却可能な「製造設備」
こうした資産は、法定耐用年数を過ぎても一定の価値を持ち続けます。
その「残りの価値」こそが残存価額です。
「現在価値」とは別物なので注意
残存価額と混同されやすいのが「現在価値(簿価)」です。
● 現在価値(帳簿価額)
取得原価 - 減価償却累計額 = 現在価値
→ 会計帳簿上での固定資産の価値
● 残存価額
耐用年数終了後に残ると見込まれる価値
→ 減価償却の計算に使用する前提値
名称が似ているため誤解されがちですが、現在価値=残存価額ではありません。
目的も意味も異なる概念なので、帳簿作成や分析の際には区別が必要です。
2006年までの税制では「残存価額10%」が義務だった
日本の税制では、2006年(平成18年)まで、固定資産の残存価額は 取得原価の10% と定められていました。
つまり、100万円の機械なら、減価償却できるのは90万円までで、残り10万円は原則として償却できませんでした。
● 10%ルールが抱えていた問題点
・実態に合わない資産価値を強制的に残すことになる
・投資回収が遅れ、企業の設備投資意欲を下げていた
こうした問題を受け、制度が大きく見直されました。
2007年以降は「残存価額1円まで償却可能」に変更
2007年度の税制改正により、残存価額の10%ルールは廃止されました。
現在は 1円まで減価償却が可能 となっており、減価償却の柔軟性と実態反映の精度が向上しています。
● 実務でのメリット
・資産の価値を正確に費用化できる
・設備投資の回収期間を短縮できる
・企業会計と税務会計の整合性が高まる
固定資産管理がより実務的な運用になったことで、企業の設備投資判断にも良い影響を与える改正となりました。
まとめ:残存価額は減価償却の「前提値」として理解しておくべき概念
残存価額とは、固定資産の耐用年数終了後に残る価値を示す重要な考え方です。
現在価値とは異なり、減価償却の計算に使用される前提値である点がポイントです。
2006年までの「取得原価の10%」ルールは廃止され、現在は1円まで償却可能 となったことで、実務は大きく柔軟になりました。
経理担当者だけでなく、個人事業主や経営者にとっても、固定資産の管理・設備投資判断に欠かせない知識です。
ぜひ、減価償却の理解を深めるための基本として押さえておきましょう。
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