企業経営において赤字は避けられないものですが、「繰越欠損金(くりこしけっそんきん)」を正しく理解すれば、将来の法人税負担を軽減することが可能です。
この記事では、繰越欠損金の基本概念から決算書上の表示位置、控除限度額、仕訳の方法までをわかりやすく解説します。
青色申告を行う法人の経理担当者や経営者の方は、ぜひ基礎知識として押さえておきましょう。
🔹 繰越欠損金とは
繰越欠損金とは、過去に発生した赤字(欠損金)を将来の黒字(所得)から差し引くことで、法人税を軽減できる制度です。
これは、法人税法に基づき青色申告法人に認められた制度で、事業年度ごとに発生した損失を翌年度以降に「繰り越す」ことが可能です。
たとえば、ある年度で赤字100万円、翌年度で黒字200万円の場合、繰越欠損金を利用すれば、200万円-100万円=100万円に対してのみ課税されます。これにより法人税の負担を抑え、キャッシュフローの改善が期待できます。
🔹 税効果会計と繰延税金資産
繰越欠損金を会計上に反映する際には、税効果会計の考え方が必要です。
赤字によって将来支払う法人税が減少する見込みがあるため、その分を「繰延税金資産」として貸借対照表に計上します。
ただし、将来も赤字が続くような場合は、税金の減少効果を実現できないため、繰延税金資産の計上には「回収可能性」の判断が求められます。黒字化が見込まれることが前提です。
🔹 繰越欠損金の適用要件
繰越欠損金を利用するためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
-
青色申告法人であること
-
欠損金が10年以内に発生したもの(平成30年4月1日以後開始事業年度)
-
帳簿書類の適切な保存
-
欠損金発生後も連続して申告を行っていること
これらの条件を満たしていない場合、繰越欠損金は認められませんので注意が必要です。
🔹 控除限度額と中小企業の優遇措置
繰越欠損金には控除できる上限(控除限度額)が設定されています。
-
中小企業(資本金1億円以下):所得の全額を控除可能
-
大企業:繰越控除前の所得金額の50%まで控除可能
たとえば、大企業で所得が1,000万円ある場合、最大で500万円分までの欠損金を控除できます。
🔹 繰越期間は10年
平成30年4月1日以後に開始する事業年度から、繰越期間は10年間と定められています。
それ以前の欠損金については、発生年度により期間が異なるため注意しましょう。
🔹 M&A時の取扱い
「欠損金のある会社を買収すれば、税負担を減らせるのでは?」という質問を受けることがあります。
実際には、法人税法で厳しい要件が定められており、単に繰越欠損金を目的としたM&Aではその利用が認められないケースが多いです。
買収・合併を検討する際は、必ず税理士などの専門家に相談することが重要です。
🔹 決算書での表示場所
繰越欠損金の金額は決算書には直接記載されません。
実際の金額は、法人税申告書の別表七(一)「欠損金の損金算入等に関する明細書」に記載されます。
この別表では、各事業年度ごとの欠損金額、当期控除額、翌期繰越額が整理されており、実際の税額計算の基礎となります。
🔹 繰越欠損金の仕訳例
例:欠損金100万円、実効税率30%の場合
繰延税金資産=100万円 × 30% = 30万円
仕訳:
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 繰延税金資産 | 300,000円 | 法人税等調整額 | 300,000円 |
この仕訳により、将来の税金減少分を資産として計上します。
🔹 繰越欠損金のメリット・デメリット
メリット
-
税負担を軽減できる
-
キャッシュフローが改善する
-
経営の安定化に寄与する
デメリット
-
利用期間に制限がある(10年)
-
将来黒字化しなければ実際に活用できない
-
税効果会計の判断が難しい場合がある
🔹 まとめ
繰越欠損金は、企業が赤字を乗り越え安定した経営を行うための重要な制度です。
ただし、青色申告の承認や期限、控除限度額、税効果会計の取扱いなど、正確な知識が求められます。
税法改正の影響も受けやすいため、最新の情報を確認しながら適切に対応しましょう。
さらに参照してください:

