資産除去債務は、会計や経理の仕事をしていると必ず耳にする重要ワードです。ただ、専門的なイメージが強く「結局どういう時に計上するの?」と悩む人が多い分野でもあります。
この記事では、資産除去債務の意味、会計基準、実務で使う仕訳、計算方法までを、初めて学ぶ方にもわかりやすくまとめました。
資産除去債務は上場企業を中心に求められる処理ですが、内容を理解しておくと固定資産や長期契約の判断にも役立ちます。
資産除去債務とは何か
資産除去債務とは、建物などの有形固定資産を取得・使用することによって将来必ず発生する原状回復や解体などの費用を、負債として見積もって計上することをいいます。
例えば次のようなケースです。
・賃貸物件に造作工事をしたため、退去時に原状回復が必要
・建物を建設したが、契約で将来の解体が義務付けられている
・原子力発電所などの解体費用が法律で義務付けられている
こうした「将来の除去義務」が存在し、かつ合理的に見積もれる場合は、取得時点で負債として資産除去債務を計上します。
ポイントは「将来かかる費用だけど、使用開始時点で負債として認識する」というところです。
資産除去債務の会計基準
資産除去債務は、企業会計基準第18号および適用指針第21号によって定義されています。
この会計基準は、国際会計基準(IAS)に合わせる形で2008年に導入され、2010年度から適用が始まりました。
基準では、資産除去債務が以下の条件を満たす場合に計上が必要とされています。
・有形固定資産の取得、建設、使用により発生するもの
・法律または契約に基づく義務であること
・最終的に資産の除去(解体・撤去など)に結びつくこと
また重要なのが、「見積もり可能な時点で計上する」というルールです。
見積りが不可能な場合は計上せず、注記のみ行います。
なお、中小企業では原則として資産除去債務の計上義務はありません(ただし任意適用は可能)。
資産除去債務の計算方法
資産除去債務は、将来支払う除去費用を現在価値に割り引いて計算します。
ここでは代表的な例で見てみましょう。
〈例〉
10年後に原状回復義務がある建物。
将来の除去費用は300万円と見積もられる。
割引率は3%。
計算式:
300万円 ÷ 1.03¹⁰ = 2,232,309円
この2,232,309円を以下のように仕訳します。
〈仕訳〉両建処理
借方:建物 2,232,309
貸方:資産除去債務 2,232,309
「両建処理」とは、負債だけでなく同額を固定資産に加算する処理のことです。
期末の処理(利息費用)
資産除去債務は現在価値で計上しているため、期末には「利息費用」を認識して負債残高を増加させます。
〈例〉
資産除去債務残高:2,232,309円
割引率3%
仕訳
借方:利息費用 66,969
貸方:資産除去債務 66,969
これは、将来支払額へ向けて現在価値を引き上げる処理です。
減価償却の処理
両建処理で資産に上乗せされた部分は、資産の使用期間に応じて減価償却します。
例のケースでは、10年使用、残存価格ゼロとすると、
2,232,309 ÷ 10年 = 223,231円
〈仕訳〉
借方:減価償却費 223,231
貸方:建物減価償却累計額 223,231
実際に除去したときの処理
契約終了後、実際に除去費用が発生したときに差額を認識します。
〈例〉
見積もり:300万円
実際の除去費用:301万円
〈仕訳〉
借方:建物減価償却累計額 2,232,309
借方:資産除去債務 3,000,000
借方:履行差額 10,000
貸方:現金預金 3,010,000
実際費用が上回った1万円は「履行差額」として費用計上されます。
敷金の場合の簡便法
賃貸物件の敷金は、資産除去債務の両建処理ではなく簡便法が認められています。
〈例〉
敷金50万円のうち20万円は原状回復に利用される見込み
使用期間:10年
〈仕訳〉(期末)
借方:敷金の償却 20,000
貸方:敷金 20,000
将来返還されない部分を使用期間で按分して償却します。
まとめ
資産除去債務は、将来の除去費用を見積もり、あらかじめ負債として計上する大切な会計ルールです。
・将来発生する解体費用などを現在価値で計上
・両建処理で負債と資産を同額で認識
・期末には利息費用で負債を増加
・資産側は減価償却で費用配分
・実際の除去時には見積額との差額を調整
この流れを理解しておけば、多くの実務で応用できます。
必要なタイミングで見積もりができるか、契約上の義務があるかなどを丁寧に確認しながら処理していきましょう。
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