退職時に受け取る「退職金」。その中でも最も多くの企業が採用しているのが「退職一時金制度」です。
ただ、退職金制度は会社ごとに異なり、確定拠出年金(DC)や企業年金との違いがわかりづらいという声もよく聞きます。
そこで今回は、会計と税務の専門家の視点から、退職一時金制度の仕組み、種類、メリット・デメリット、税金の扱い、企業年金との違いまでをわかりやすく解説します。退職金制度を検討している企業はもちろん、従業員として理解を深めたい方にも役立つ内容になっています。
退職一時金制度とは?
退職一時金制度とは、従業員が退職した際に「1回きりの一時金」として退職金を支給する仕組みのことです。支給は義務ではなく、制度を設けるかどうか、金額や計算方法まで会社が自由に決められます。
厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」では、退職給付制度を持つ企業は74.9%、そのうち退職一時金のみを採用している企業が69.0%と、多くの企業が一時金形式を選んでいることがわかります。
退職金というと「一時金のこと」を指すケースが一般的で、最も馴染みのある制度といえるでしょう。
退職年金(企業年金)との違い
退職給付には、一時金のほかに「退職年金(企業年金)」があります。
違いをざっくりまとめるとこんな感じです。
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退職一時金
退職時にまとまった額が1回で支給される。 -
退職年金(企業年金)
毎月や毎年のように、定期的に一定額が支給される。
継続的に老後資金として受け取れるのが年金型で、ライフイベントに使いやすいのが一時金といえます。
退職一時金制度の種類
退職一時金は、大きく次の3種類に分けられます。
1. 社内準備(社内積立)型
企業が内部で資金を積み立て、退職時に支給するタイプ。手続きはすべて社内で完結します。
2. 中小企業退職金共済(中退共)
中小企業向けの国の共済制度。掛金は外部の共済で管理され、事務負担が少ないのが特徴。
3. 特定退職金共済制度
商工会議所などが提供する制度で、税務署の承認を受けて実施されます。中退共との併用も可能。
退職金制度を外部で管理するか、社内で管理するかによって特徴が大きく変わります。
社内準備型のメリットとデメリット
退職一時金の中でも最も採用が多いのが社内準備型です。
「令和5年就労条件総合調査」では**56.5%**が社内準備型を採用しています。
企業側のメリット
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手続きが社内で完結し、資金管理がしやすい
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資金の流動性が高く、一時的に別用途へ回せる場合がある
企業側のデメリット
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原資の運用をすべて自社で担う必要がある
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積立金は課税対象となる
従業員側のメリット
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会社が規程を柔軟に決められるため、入社1年未満の退職でも支給されることがある
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まとめて一時金を受け取れる
従業員側のデメリット
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企業の業績悪化などで資金が不足した場合、受け取れないリスクがある
退職一時金と企業型確定拠出年金(DC)の違い
近年加入者が増えているのが「企業型確定拠出年金(企業型DC)」です。
退職一時金制度との違いは以下の通り。
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企業型DC
会社が掛金を拠出し、従業員自身が運用を指示。将来受け取る金額は運用次第で変動する。 -
退職一時金制度
従業員は運用に関与せず、会社が運用とリスクを負担。支給額は規程に基づきあらかじめ決まっている。
つまり、積極的に運用するならDC、確実性を重視するなら退職一時金制度という住み分けになります。
税金の扱い
退職一時金には「退職所得」という特別な税制が適用され、ほかの所得より優遇されています。
退職一時金は所得税・住民税の課税対象
ただし、一般の給与課税とは大きく異なる点があります。
退職所得控除が使える
勤続年数に応じて控除額が増えるため、長く働いた人ほど手取りが多くなります。
さらに、計算式も給与と異なり、(退職金-退職所得控除)÷2 で課税所得が算出されるため、税負担はかなり軽くなります。
原則として確定申告は不要
退職時に「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、源泉徴収だけで手続きが完了します。
退職一時金の支給時期
企業ごとに規程は異なりますが、一般的には次のタイミングで支給されます。
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退職日から1~2か月以内
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会社の給与締め日に合わせて支払う場合もある
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退職金規程に「支払時期」を明記するのが一般的
就業規則や退職金規定で確認するのがおすすめです。
まとめ
退職一時金制度は、日本の企業で最も広く採用されている退職給付制度です。
確定拠出年金(DC)や企業年金との違いを理解しておくと、制度設計や受け取り方をより納得しながら選べます。
ポイントをふりかえると、
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一時金は「まとまった資金が必要な人」に適している
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社内準備型は柔軟だが運用リスクも会社負担
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税制優遇により、実際の手取りは大きくなる
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支給時期や金額は会社規程で大きく異なる
退職金は老後生活の基盤になる大切なお金。企業側も従業員側も、制度を正しく理解しておくと安心です。
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