企業が株主に配当を行うことは、経営の成果を還元する重要な行為です。
しかし、会社法のルールを無視した配当を行うと「違法配当(いほうはいとう)」に該当し、経営者個人の責任が問われることもあります。
本記事では、会計・法務の観点から「違法配当とは何か」を、初心者にもわかりやすく解説します。
🧾違法配当とは?
違法配当とは、会社法や定款で定められたルールに違反して行われる配当のことを指します。
具体的には次のようなケースです。
-
定款に反して配当を行った場合
-
分配可能額(会社法第461条)を超えて剰余金の配当を行った場合
典型的な例として挙げられるのが、粉飾決算により実際には利益がないのに見せかけの利益を計上し、株主に配当を行う行為です。
このような行為は俗に「蛸配当(たこはいとう)」と呼ばれます。
また、たとえば反対株主からの株式買取請求に応じた支払額が、支払時点の分配可能額を超えていた場合も、違法配当にあたります。
⚖️会社法における違法配当の考え方
会社法第461条では、「分配可能額」の範囲内でのみ配当を行うことが許されています。
つまり、会社が持つ純資産のうち、配当しても会社財務に支障をきたさない金額が上限となります。
分配可能額は「直近の決算書(貸借対照表)」をもとに算出し、さらに**決算後から配当決定までに生じた増減(資本金の増減・自己株式の取得・配当支払など)**を反映して算定します。
このようにして、会社が過大な配当を行わないよう法的にブレーキをかける仕組みが整えられています。
🧮分配可能額の計算方法【会社法第461条】
会社法に基づく分配可能額(=配当の上限額)は、次の計算式で求められます。
記号 | 内容 |
---|---|
A | 剰余金の額 |
B | 株主総会で承認された当期利益の額+処分した自己株式の対価額 |
C | 自己株式の帳簿価額 |
D | 最終事業年度末後に自己株式を処分した場合の対価額 |
E | 上記に関連する期間内の損失計上額 |
F | 法務省令で定める勘定科目に計上された額 |
また、剰余金を配当する際には、会社法第445条第4項により次のような「準備金」の積立が義務付けられています。
「剰余金の配当をする場合には、当該配当額の10分の1以上を資本準備金または利益準備金として計上しなければならない。」
さらに、会社の**純資産額が300万円を下回る場合(会社法第458条)**には、そもそも配当を行うことができません。
💡違法配当が発生した場合のリスク
違法配当が行われると、会社や経営者には次のようなリスクが発生します。
-
取締役の責任追及(会社法第462条)
→ 取締役は善管注意義務違反として損害賠償責任を負う可能性があります。 -
株主への返還請求
→ 違法配当により受け取った株主は、原則としてその金額を会社に返還しなければなりません。 -
税務上の問題
→ 架空利益を前提とした配当は、法人税の修正申告や追徴課税につながる可能性もあります。
🏢中小企業でよくある注意点
中小企業では、配当の判断を会計士ではなく経営者自身が行うケースが多く、
「利益が出たから配当しても大丈夫」と安易に判断してしまうことがあります。
しかし、分配可能額の算定を誤ると違法配当になりかねません。
特に注意すべきポイントは次の通りです。
-
決算書作成後に自己株式の取得や減資を行った場合
-
剰余金の配当額が資本を侵食している場合
-
粉飾決算によって利益を過大に計上している場合
これらを防ぐには、決算前に会計士や税理士と相談し、分配可能額の正確な算定を行うことが重要です。
🧭まとめ:適正な配当で会社の信頼を守ろう
違法配当は、経営者にとって重大な法的リスクを伴う行為です。
配当を行う際には、
-
分配可能額を正確に計算する
-
準備金の積立を怠らない
-
純資産額が300万円未満の場合は配当しない
といった基本ルールを確実に守ることが求められます。
さらに参照してください: