企業にとって「売掛金」や「貸付金」などの債権は、事業の重要な資産です。
しかし、取引先の経営悪化などで回収が困難になると、それは「不良債権」と呼ばれ、経営に大きな影響を与えることになります。
この記事では、一般企業における不良債権の意味・回収方法・会計処理の手順を、わかりやすく解説します。
不良債権とは?なぜ企業経営に影響するのか
「不良債権(ふりょうさいけん)」とは、回収の見込みが立たなくなった債権を指します。
銀行などの金融機関では融資金の回収が困難になった状態を指しますが、一般企業でも売掛金や貸付金の回収ができなくなることがあります。
企業で不良債権が発生すると、次のような問題を引き起こします。
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売上計上後の入金が滞り、キャッシュフローが悪化する
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貸倒処理によって損失が発生し、利益が減少する
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決算時に貸倒引当金の見積もりが増加する
特に中小企業では、1件の不良債権が経営を揺るがすケースも珍しくありません。
不良債権になりやすい代表的な取引
不良債権は、特定の業種に限らず発生します。
主な勘定科目ごとのリスクは次のとおりです。
1. 売掛金・受取手形
取引先への販売代金が支払われないケースです。支払期日を過ぎても入金がない場合は「滞留債権」として管理し、回収見込みが立たない場合には不良債権に分類します。
2. 貸付金
取引先や関連会社、あるいは役員・従業員への貸付金も、返済が行われなければ不良債権となります。返済期限を過ぎた時点で、早期に状況確認を行うことが重要です。
3. 立替金
取引先に代わって一時的に支払った金額(例:運送費など)が返済されない場合も、不良債権化するおそれがあります。
4. 未収入金
固定資産の売却代金や家賃収入など、営業外取引で未回収のものも不良債権となる可能性があります。
不良債権比率の計算方法
企業の債権全体のうち、どの程度が不良債権化しているかを示す指標が不良債権比率です。
計算式:
例えば、債権合計1億円のうち不良債権が100万円ある場合、
不良債権比率は「1%」となります。
この比率が高い企業ほど、資金回収リスクが大きいことを意味します。
一般的に、0.5〜1.0%以内に抑えられていると健全といえるでしょう。
不良債権の回収方法と手順
不良債権が発生した場合、まずは迅速な対応が鍵となります。
回収には時効(通常は5年)があるため、できるだけ早く以下の手順を実行しましょう。
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電話・メールで支払いの意思を確認
まずは穏やかに支払いを促す連絡を行います。 -
督促状の送付
支払い期日を明記した正式な文書を送付し、記録を残します。 -
内容証明郵便の送付
法的手続きを視野に入れた最終通告として送付します。 -
民事調停や支払督促の申立て
裁判所を通じて話し合いや法的督促を進める方法です。 -
訴訟・強制執行
最終的には裁判を経て差押えを行うこともあります。
ただし、債権者の資産状況によっては、訴訟を行っても回収が難しいケースもあります。
費用対効果を見極め、専門家(弁護士・司法書士など)への相談も検討しましょう。
不良債権の会計処理
不良債権の会計処理では、回収不能かどうかの判断によって仕訳が異なります。
① 回収不能が確定した場合(貸倒れ)
※損益計算書上の「営業外費用」に計上します。
② 回収不能の可能性がある場合(貸倒引当金の設定)
※決算時に将来のリスクに備えるための処理です。
なお、貸倒引当金の繰入限度額は税法上の上限が定められており、
業種によって以下のように異なります(国税庁より)。
| 業種 | 繰入限度率 |
|---|---|
| 小売業・飲食業 | 1.0% |
| 製造業・電気業 | 0.8% |
| 金融・保険業 | 0.3% |
| その他の事業 | 0.6% |
不良債権を防ぐための管理体制づくり
不良債権は、発生してから対応するよりも「未然防止」が何より大切です。
以下の3つの対策を徹底することで、リスクを大幅に減らすことができます。
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取引先の信用調査を定期的に行う
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支払遅延が起きた時点で担当部署と情報共有する
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債権管理システムを導入し、入金状況を可視化する
近年は「クラウド債権管理」や「入金消込自動化ツール」などの導入で、
中小企業でも債権管理の効率化が進んでいます。
まとめ
不良債権は、どの企業にも起こり得るリスクです。
早期発見と迅速な回収、そして適切な会計処理を行うことが、経営の安定に直結します。
もしすでに回収が滞っている債権がある場合は、
早めに法的手段や専門家への相談を検討し、損失を最小限に抑えましょう。
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