会社分割とは

会社分割とは?わかりやすく解説

企業の成長戦略や事業再編を進める上で欠かせないのが「会社分割」です。
会社分割は、一部の事業を切り出して新会社に引き継ぐ、あるいは他社に承継させるという、会社法上の重要な組織再編手法の一つです。

この記事では、会計と法務の両面に精通した専門家の視点から、
「会社分割とは何か」「吸収分割と新設分割の違い」「具体的な手続きの流れ」までをわかりやすく解説します。

🔹 会社分割とは?

会社分割(かいしゃぶんかつ)とは、会社が自社の事業の全部または一部を分割し、
その事業を新設会社
または既存の他の会社に承継させる手続きのことです。

会社分割は、主に次の2種類に分類されます。

分類 内容 承継先
新設分割 新しい会社を設立し、そこに事業を引き継ぐ 新設会社
吸収分割 既存の他の会社に事業を引き継ぐ 既存会社

このように、会社が自らの事業を分けて移転させる点が会社分割の特徴です。
営業譲渡に似ていますが、包括的に権利義務を引き継ぐ(包括承継)ため、個別契約や資産移転の手続きが簡略化されるという大きなメリットがあります。

🔹 労働契約の引き継ぎと保護

会社分割に伴う再編では、従業員の雇用の安定が重要な課題となります。
このため、「労働契約承継法」により、分割対象事業に従事する従業員の雇用契約は自動的に承継会社へ引き継がれる仕組みになっています。

これにより、会社分割後も労働者の身分や労働条件が不当に不安定になることを防いでいます。

🔹 会社分割制度の背景と考え方

もともと、日本企業では事業再編を行う際、営業譲渡(事業譲渡)という手法が用いられていました。
しかし、営業譲渡には以下のような課題がありました。

  • 取引契約や許認可の個別移転手続きが煩雑

  • 労働契約の再締結が必要

  • 税務面での扱いが複雑

こうした問題を解決するため、2000年の商法改正で会社分割制度が導入され、
2005年の会社法制定によって制度が整備されました。

現在の会社法では、会社分割でいう「事業」とは

「一定の事業活動の目的のために組織化された、有機的一体として機能する財産(債務を含む)」
と定義されています。

そのため、会社分割では合併と同様に包括承継の仕組みが採用されており、
ただし会社本体が消滅せず、権利義務の一部を残せるため、「部分的包括承継」と呼ばれます。

🔹 吸収分割の4つのタイプ

吸収分割には、分社型分割型の2分類があり、さらに「対価の内容」によって次の4つに分かれます。

タイプ 対価の交付先 対価の内容 特徴
① 分社型吸収分割(株式対価) 分割会社 株式 承継会社が株式を交付し、資本関係が残る
② 分社型吸収分割(金銭等対価) 分割会社 現金など 実質的に事業譲渡に近い形態
③ 分割型吸収分割(株式対価) 分割会社の株主 株式 グループ再編によく使われる
④ 分割型吸収分割(金銭等対価) 分割会社の株主 現金など 株主への直接的な金銭配分が発生

たとえば、親会社が子会社に事業を移転させたい場合には、③分割型吸収分割がよく利用されます。

🔹 新設分割の3つのタイプ

新設分割は、事業を切り出して新しい会社を設立する手法です。
その形式は次の3つに分けられます。

タイプ 対価の交付先 特徴
① 分社型新設分割 分割会社 分割会社が新設会社の株式を取得
② 分割型新設分割 分割会社の株主 株主が新設会社の株式を取得
③ 共同新設分割 複数の分割会社 複数の会社が共同で新会社を設立し、それぞれ株式を取得

たとえば、複数の企業がそれぞれの事業を統合して新会社を設立する場合には、共同新設分割が採用されます。
これにより、複数企業の強みを集約した新たなビジネス展開が可能になります。

🔹 会社分割と営業譲渡の違い

項目 会社分割 営業譲渡
承継の範囲 包括承継(自動的に権利義務を引き継ぐ) 個別承継(契約ごとに移転手続き)
手続きの複雑さ 比較的シンプル 手続きが煩雑
労働契約 自動的に承継 再締結が必要
税務上の取扱い 再編税制の適用あり 譲渡益課税あり
用途 グループ再編・事業分離 事業売却・撤退

このように、会社分割はよりスムーズに事業再編を進められる制度として、多くの企業で活用されています。

🔹 まとめ:会社分割は柔軟な事業再編のカギ

会社分割は、単なる「事業の切り売り」ではなく、
企業グループ全体の最適化や事業ポートフォリオの再構築を可能にする手段です。

事業再編、グループ内統合、子会社化、スピンオフなど、
さまざまな目的で利用できる柔軟な仕組みであり、
特に税務・会計・法務の三分野をまたぐため、専門家のサポートが不可欠です。

さらに参照してください:

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