企業会計に携わると必ず耳にする「偶発債務」。
言葉だけ聞くと難しそうですが、実は“まだ発生していないけれど、将来起きるかもしれない債務”を指す、とても重要な概念です。
本記事では、
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偶発債務とは何か
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どんなケースで発生するのか
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仕訳例(保証債務の記帳方法)
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会計基準での扱い(引当金との違い)
を初心者にもわかりやすく解説します。
1. 偶発債務とは?わかりやすく解説
偶発債務(ぐうはつさいむ)とは、点ではまだ発生していないものの、将来ある条件が成立した場合に発生する可能性のある債務のことです。
特徴は次の2つ:
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まだ負債として確定していない(発生していない)
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発生する可能性があり、金額を正確に予測できない
▼ 偶発債務が発生する代表例
| ケース | 内容 |
|---|---|
| 1. 債務の保証(連帯保証を含む) | 他社が返済できない場合に代わりに返済する義務 |
| 2. 手形の裏書譲渡・割引 | 不渡り時に支払い義務が発生 |
| 3. 裁判中(係争事件) | 将来、賠償金の支払いが発生する可能性 |
| 4. 未確定の契約リスク | 契約不履行などにより支払いが必要になる場合 |
「可能性はあるが、確定ではない」状態なので、負債として計上はしないものの、貸借対照表には注記が必要です。
2. 偶発債務は引当金とどう違う?
偶発債務は「可能性のある負債」ですが、だからといって引当金を計上できるわけではありません。
▼ 引当金を計上できる条件(企業会計原則)
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発生する 可能性が高い
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金額を 合理的に見積もれる
つまり次のように整理できます:
| 項目 | 偶発債務 | 引当金 |
|---|---|---|
| 発生確率 | 低い〜中程度 | 高い |
| 金額の見積り | 困難 | 可能 |
| 負債計上 | しない | する |
| 貸借対照表の注記 | 必須 | 必須ではない |
ポイント:発生の可能性が低い偶発事象には引当金は計上できない
(企業会計原則 注解18)
3. 偶発債務の会計処理|仕訳をわかりやすく解説
保証債務を例にして、仕訳の流れを整理します。
① 保証契約を結んだとき(A社の保証人になった)
A社の 5,000,000 円の債務を保証した場合、まだ支払い義務は発生していませんが、備忘記録として以下の仕訳を行います。
借方|保証債務見返 5,000,000
貸方|保証債務 5,000,000
これは「偶発債務が発生した」という事実を記録するための仕訳です。
② A社が無事返済したとき(保証債務が消滅)
保証債務がなくなるため、反対仕訳を行います。
借方|保証債務 5,000,000
貸方|保証債務見返 5,000,000
= 偶発債務(保証債務)の解消
③ A社が返済不能になった時(保証人が立替払いをする場合)
この時点で保証債務は「偶発」ではなく正式な債務として確定します。
① 備忘記録の消去
② 立替金の計上(求償権の発生)
仕訳は次の通り:
(1)備忘記録の消去)
借方|保証債務 5,000,000
貸方|保証債務見返 5,000,000
(2)A社への求償権の計上)
借方|未収金 5,000,000
貸方|現金 5,000,000
4. 会計基準における偶発債務の扱い|注記が必須
会計基準では偶発債務の注記が義務づけられています。
▼ 財務諸表等規則 第58条
偶発債務がある場合、その内容および金額を注記しなければならない。
(ただし重要性が乏しい場合は省略可)
注記すべき偶発債務の例:
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債務保証(連帯保証を含む)
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係争事件(裁判中)
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手形の裏書譲渡・割引
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契約不履行による損害賠償の可能性
5. 偶発債務を正しく理解することが重要な理由
偶発債務は企業の財務リスクを把握する上で重要な指標になります。
▼ 理由
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財務体質を正しく判断する材料になる
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銀行・投資家が企業リスクを分析する際に重視される
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経営者自身が見えない負債リスクを把握できる
特に保証債務は倒産リスクに直結するため、正確な注記と管理が求められます。
まとめ:偶発債務は「将来発生する可能性がある負債」
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偶発債務とは「将来の条件次第で発生する可能性のある負債」
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代表例は「債務保証・手形裏書・係争事件」
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発生可能性が高く金額が見積もれる場合は引当金を計上
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偶発債務は負債計上しないが 貸借対照表に注記が必須
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保証債務は備忘記録として「保証債務」「保証債務見返」で処理
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実際に支払い義務が確定したら負債として計上する
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