割引率(わりびきりつ)は、将来受け取る金額を「今の価値」に置き換えるために使う重要な指標です。会計・税務・投資など幅広い分野で用いられますが、言葉だけではイメージしにくいという方も多いでしょう。
この記事では、割引率の基本概念から計算方法、減損会計・退職給付会計・資産除去債務での具体的な使い方まで、専門家としてわかりやすく解説します。
割引率とは?意味をやさしく解説
割引率とは、将来受け取る金銭やキャッシュ・フローを現在の価値(割引現在価値)へ換算するための割合のことです。
同じ100万円であっても「今受け取る100万円」と「3年後の100万円」は価値が異なります。将来の金額をそのまま評価すると実態を誤るため、会計処理では「割引」が必要になります。
なぜ未来のお金は価値が変わるのか?
理由は主に3つです。
1. 利回りの存在
銀行に預ければ利息がつき、投資すれば運用益が見込めます。
「100万円をいま運用できる」価値は、「将来100万円を受け取る」価値より大きくなることがあります。
2. 物価上昇(インフレ)
10年後に同じ1万円で同じものが買えるとは限りません。購買力が下がるため、未来の金銭価値は相対的に低くなります。
3. 今すぐ使えないという不自由さ
定期預金のように、預け入れたお金をすぐに引き出せない場合、その「機会損失」も価値の差として考慮します。
割引率の決まり方
割引率は固定ではなく、対象資産の性質やリスクに応じて異なります。主に以下の要素を考慮します。
● すぐに使えないリスク
定期預金や国債など、拘束期間がある資産は価値の乖離が生まれます。
● 将来キャッシュ・フローの不確実性
投資した金額が将来必ず戻るとは限りません。
・リスクが高い → 割引率は高くなる
・リスクが低い → 割引率は低くなる
このように、割引率は「対象のリスクと時間価値を反映した数値」といえます。
割引率を使った計算式(割引現在価値の求め方)
割引率がわかっている場合、割引現在価値は次の式で算出します。
n:何年後に受け取るか(経過年数)
計算例
割引率:1.0%
2年後に受け取る金額:100万円
つまり、2年後の100万円は「今の価値にすると約98万円」と評価できます。
固定資産の減損会計と割引率
減損会計とは、将来回収が見込めなくなった固定資産の帳簿価額を、回収可能価額まで引き下げる処理です。
この回収可能価額の算定に「割引率」が使われます。
● 使用価値(将来キャッシュ・フロー)は割引率で現在価値に換算
使用価値を求めるときは、税引前の割引率を用い、金銭の時間価値とリスクを反映させます。
将来の見積もりがあいまいな部分(リスク)がある場合、その分も割引率に含める必要があります。
退職給付会計と割引率
退職給付会計では、従業員へ支払う退職金の現在価値を算出する際に割引率を用います。
● 割引率の基礎は「安全性の高い債券利回り」
2012年の会計基準改正により、割引率の算出はより厳密化されました。
使用できる割引率の例:
・退職給付の支払期間に応じた加重平均割引率
・支払期間ごとに異なる複数の割引率
一度採用した方法は継続使用が原則ですが、環境の変化が生じた場合には見直しが必要です。
資産除去債務と割引率
資産除去債務とは、有形固定資産の使用後に発生する「除去費用などの義務」を現在価値で負債計上する仕組みです。
例:定期借地権の終了後、建物を撤去する義務など
● 割引率は国債利回りを使うのが一般的
見積もりで算出した除去費用に割引率を適用します。
ここで使用される割引率は、通常「資産取得から除去までの期間に対応する利付国債の利回り」です。
リスクの調整は行いません。
割引率を理解すると会計の精度が向上する
割引率は、企業会計の多くの場面で使われる重要な概念です。
特に、減損会計・退職給付会計・資産除去債務などは、割引率の違いで金額が大きく変わることがあります。
将来価値と現在価値の関係を正しく理解し、適切な割引率を選択することが、企業会計の信頼性を大きく左右します。
実務担当者は、会計基準に沿った考え方と計算方法を必ず確認しておきましょう。
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