企業のM&A(合併・買収)ニュースなどでよく耳にする「営業権(のれん)」という言葉。
一体これはどんな意味を持つのでしょうか?
この記事では、会計の専門家が初心者にもわかりやすく、営業権の基本的な意味から、会計上の扱い方、そして国際会計基準(IFRS)との違いまで丁寧に解説します。
🔹営業権とは?わかりやすく言うと「企業の目に見えない価値」
営業権(えいぎょうけん)とは、
企業が持つブランド力、信用、顧客との関係性、独自技術など、将来の利益に結びつく“無形の価値”のことです。
たとえば、老舗企業が長年築いてきた顧客からの信頼やブランド価値、または競合にはないノウハウ・技術力などが営業権にあたります。
法的には「営業権」という特別な権利が存在するわけではありませんが、企業が継続的に利益を生み出せる無形資産として重要な役割を持っています。
🔹「のれん代」との関係
営業権は、一般的に「のれん代(のれん)」とも呼ばれます。
これは、企業を買収する際に支払う「目に見えない価値への対価」です。
たとえば、ある会社(A社)が別の会社(B社)を買収するとき、次のようなケースが起こります:
項目 | 金額 |
---|---|
B社の純資産(資産-負債) | 8,000万円 |
A社が支払った買収金額 | 1億円 |
この場合、差額の 2,000万円(1億円-8,000万円) が「営業権(のれん)」として計上されます。
つまり、B社の持つブランド力や取引関係など、帳簿には載らない価値をA社が評価して支払ったものです。
🔹営業権の会計処理:どんなときに計上される?
営業権は、日常の取引では計上されません。
主に以下のような企業結合(合併・買収など)のときに発生します。
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合併(会社同士が一つになる)
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事業譲渡(特定の事業を他社に売却)
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株式取得(子会社化など)
このようなケースで発生する営業権は、無形固定資産として貸借対照表に計上されます。
🔹営業権の償却期間:日本基準と国際基準の違い
営業権は「無形資産」であるため、その価値を一定期間にわたって費用化(償却)していきます。
ただし、会計基準によって扱いが異なります。
会計基準 | 償却の扱い | 特徴 |
---|---|---|
日本基準(J-GAAP) | 20年以内に定額償却 | 営業権を時間の経過とともに費用として計上する |
国際会計基準(IFRS) | 償却しない(非償却) | 価値が下がったときのみ「減損処理」する |
つまり、日本では毎年一定額を費用として計上するのに対し、
IFRSでは営業権を償却せず、価値が落ちたと判断されたときにだけ損失を計上します。
この違いは、企業の決算内容(特に経常利益や純利益)に大きな影響を与えるポイントです。
🔹営業権の減損とは?
営業権の価値が下がった場合には、減損処理を行う必要があります。
たとえば、買収した企業の業績が悪化し、将来の利益が見込めなくなった場合などです。
減損処理では、営業権の帳簿価額を実際の回収可能価額まで引き下げ、その差額を「減損損失」として費用に計上します。
🔹営業権に関する注意点
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自社で築いたブランド価値は自社の営業権として計上できない
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営業権は売買やM&Aによって外部取引が発生した場合にのみ計上可能
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償却・減損の扱いを誤ると、利益の過大・過少計上につながる可能性がある
🔹まとめ
項目 | 内容 |
---|---|
定義 | 企業のブランド力・信用・技術力などの無形の価値 |
別名 | のれん(のれん代) |
計上されるとき | M&Aや合併などの企業結合時 |
償却方法 | 日本基準では20年以内に償却、IFRSでは非償却(減損処理) |
注意点 | 自社で作った営業権は計上できない |
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