手形は、企業間取引で長く使われてきた「将来の支払いを約束する証券」です。名前は知っていても、実際の取扱いやルールまでしっかり理解している方は意外と少ないものです。手形は信用を前提とした決済手段なので、必要な記載事項に不備があると無効になってしまうケースもあります。
この記事では、手形要件の基本から、約束手形・為替手形の具体的な記載事項、不備がある場合の扱い、白地手形や裏書きの注意点まで、会計実務の観点からわかりやすく解説します。
※政府は2026年度末までに約束手形の利用を実質廃止する方針を示しています。今後の対応が気になる方は、関連する記事もあわせて確認しておくと安心です。
手形要件とは?まずは基本を押さえよう
そもそも手形とは?
手形は「所定の期日に、一定の金額を支払うことを証明する証券」です。主に企業間取引で、現金の代わりに決済手段として用いられています。
掛取引と似ていますが、手形は法的な強制力が強く、支払い期日(満期)が明確に定められている点が大きな違いです。
手形には次の2種類があります。
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約束手形 振出人が受取人に支払いを約束する2者間の手形
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為替手形 振出人が第三者(支払人)に支払いを委託する3者間の手形
どちらの場合も、所定の要件が満たされていなければ手形としての効力が認められません。
手形要件とは「手形を有効にするために必要な記載事項」
手形を有効にするためには、法律で決められた「必要的記載事項」を満たしている必要があります。これを手形要件と呼びます。
必要事項が正しく記載されていることで、
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誰が見ても支払い内容が明確になる
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トラブルや不正を防止できる
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信用ある証券として安心して利用できる
といったメリットがあります。
なお、記載しても効力に影響しない「無益的記載事項」、逆に記載すると手形が無効となる「有害的記載事項」もあるため、実務上は細心の注意が必要です。
約束手形の要件一覧
約束手形に必ず記載すべき事項は次の通りです。
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約束手形である旨の文言(用紙に印刷済)
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支払を約束する文言
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手形金額
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満期(支払期日)
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支払地
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受取人の氏名または名称
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振出日
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振出地(省略できる場合あり)
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振出人の署名(個人は住所・氏名・押印/法人は住所・社名・職名・氏名・押印)
金額表記には決まりがあり、手書きなら漢数字(例:金壱百五拾万円成)、アラビア数字ならチェックライターを使用し「¥」「※」などを明記します。
日付の誤りは無効につながりやすいので、振出日と満期日の前後関係には特に注意が必要です。
為替手形の要件一覧
為替手形は3者関係のため、約束手形より項目が多くなります。
必要事項は次の通りです。
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為替手形である旨の文言
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支払委託文言
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手形金額
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支払人
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満期
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支払地
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受取人の氏名または名称
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振出日
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振出地(必要な場合あり)
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振出人の署名
支払人には住所記載が必須ではありませんが、実務上は引受提示がスムーズになるため記載が推奨されます。
要件に不備があると手形は無効になる?
結論として「必要的記載事項に不備がある手形は無効」とされます。
実務では、次のような不備が特に多いです。
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満期と振出日の前後が逆
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支払地の記載漏れ
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金額の表記ルール違反
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代表者肩書を省略した法人署名
手形を受け取った側にも確認義務があるため、額面だけで判断せず、受取時には必ず要件チェックを行いましょう。
白地手形とは?空欄があってもOKなケース
必要的記載事項の一部を空欄のまま振り出す「白地手形」も存在します。
白地手形の特徴
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空欄補充を前提として振り出される
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振出人の署名(または裏書人・保証人)があれば交付可能
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受取人(または所持人)が後に空欄を補充する
便利ではありますが、当事者間の合意内容と異なる補充が行われるとトラブルに発展するリスクもあるため、実務では十分な合意形成が欠かせません。
裏書に必要な記載事項
手形を第三者へ譲渡する際には、手形裏面に「裏書」が必要です。
裏書に必要な事項
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譲渡人(裏書人)の住所・氏名・押印
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被裏書人(譲渡先)の氏名または会社名(実務上は空欄でも可)
会社名は必ず正式名称で記載し、略称は使用できません。
裏書された手形は「裏書手形」「廻り手形」と呼ばれ、手形流通の基本的な仕組みを支えています。
まとめ
手形は信用をベースにした古くからの決済手段であり、細かなルールによって成り立っています。
手形要件が欠けていると手形自体が無効になる恐れがあるため、振出側だけでなく、受取側も必ず記載内容をチェックすることが重要です。
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