企業が株式や債券などの有価証券を売却したとき、売却価格が帳簿価額を下回ると「有価証券売却損」が発生します。
経理ではよく出てくる勘定科目ですが、「投資有価証券売却損」との違いや、仕訳方法が意外と曖昧になりがちです。
この記事では、
・有価証券売却損の意味
・投資有価証券売却損との違い
・計算方法(移動平均法・総平均法)
・売却時の仕訳例
を専門家としてわかりやすく解説します。初心者の方でも読み進めれば自然と理解できる内容です。
有価証券売却損とは?
有価証券売却損(ゆうかしょうけんばいきゃくそん) とは、企業が保有している 売買目的有価証券を売却した際に発生する損失 のことです。
売却損が出るケース
帳簿価額 > 売却価格
となった時に損失として計上します。
計算式は次の通りです。
売却損 = 売却価格 - 帳簿価額(※マイナス値になる)
会計上、売買目的有価証券は「短期間で売買し、値上がり益を得る」ための有価証券です。そのため、売却した段階で損益を認識します。
一般的な有価証券の種類
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株式
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国債・地方債・社債
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投資信託
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出資証券 など
これらのうち、「売買目的」で保有しているものを売却して損が出た場合に使うのが 有価証券売却損 です。
投資有価証券売却損との違い
似た勘定科目に 投資有価証券売却損 があります。
| 勘定科目 | 使用するケース |
|---|---|
| 有価証券売却損 | 売買目的有価証券の売却時に損失が生じた場合 |
| 投資有価証券売却損 | 「その他有価証券」(長期保有が前提)の売却時に損失が生じた場合 |
つまり、
目的(売買目的 / 投資目的)によって使い分ける
という点が重要です。
有価証券売却損は消費税の対象外
有価証券の売買は、消費税法上 非課税取引 に該当します。
そのため、売却時に 消費税はかかりません。
例外的に、ゴルフ会員権など「実質的にサービスへの権利」と判断される有価証券は課税対象になる可能性がありますが、一般的な株式・債券はすべて非課税です。
有価証券売却損の計算方法
売却損は以下の式で求めます。
売却損 = 売却価格 - 帳簿価額
ただし、株式などを複数回購入・売却する場合は、売却する分の「原価」を計算する必要があります。
その際に使用されるのが以下の 2つの方法です。
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移動平均法
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総平均法
どちらも会計基準で認められた一般的な計算方法です。
1. 移動平均法(毎回平均単価を更新する方法)
移動平均法では、 新たに購入するたびに平均単価を更新 します。
売却しても平均単価は変わりません。
●具体例
前提条件を要約すると次の通りです。
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同じ銘柄を売買目的で売買
-
購入・売却を複数回実施
(例の計算内容は#contentの通り)
ここでのポイントは、
売却時点の平均単価 × 売却株数 = 売却原価
という計算を行い、売却価格との差額を損益として認識します。
移動平均法は、取引のたびに平均単価を更新していくため、リアルタイムで損益を把握しやすいのが特徴です。
2. 総平均法(期間の終わりにまとめて平均単価を計算)
総平均法では、
一定期間に購入した有価証券をまとめて集計し、期間終了後に平均単価を計算
します。
そのため、期間が終了するまで正確な売却損を計上できません。
●特徴
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月末などの集計後に計算できる
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計算の手間は少ないが、即時性は低い
(#content の具体例の通り、1月20日の売却は、月末集計後でないと損益を確定できない)
有価証券売却損の仕訳例
■ 売買目的有価証券を売却して損失が出た場合
(例)帳簿価額 200,000円 の株式を 180,000円で売却した
■ 投資有価証券(その他有価証券)を売却して損が出た場合
売却手数料の仕訳
売却時に証券会社へ払う手数料は 支払手数料 として処理します。
(例)売却手数料 200円を現金で支払った
売却損計算とは区別する点に注意が必要です。
まとめ:有価証券売却損は性質と目的を理解すれば難しくない
有価証券売却損は、売買目的有価証券を売却して損が出たときに使用する勘定科目です。
ポイントは以下の4つです。
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売却価格が帳簿価額を下回ると損が出る
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「投資有価証券売却損」とは使用する目的が異なる
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売却には消費税がかからない
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原価計算には「移動平均法」と「総平均法」がある
仕訳はシンプルですが、計算方法や勘定科目の違いを理解しておくことで、正確な経理処理ができます。
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