会社の経営や経理業務を行う上で、「法定福利費」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。
実は、法定福利費は法律で会社に支払いが義務付けられている重要な費用で、計算方法や仕訳の理解が不十分だと、経理上のトラブルや節税機会の損失につながることもあります。
この記事では、法定福利費の基礎知識から計算方法、仕訳例、建設業での見積書作成まで、わかりやすく解説します。
法定福利費とは?
法定福利費とは、健康保険法・厚生年金保険法・労働基準法などに基づき、事業者に支払い義務がある福利厚生費用のことです。
会社独自の住宅手当や社員旅行とは異なり、法律で全ての事業者に義務付けられている点が特徴です。
事業者負担分は経費として計上可能で、節税にも活用できます。
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支払い方法:従業員給与から天引きするケースが多い
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負担割合:事業者全額負担か、労使折半(1/2)
法定福利費に含まれる保険の種類
法定福利費は、主に以下の社会保険などで構成されます。
1. 健康保険
労働者やその扶養家族が病気やケガをした際に適用される保険。
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負担割合:労使折半
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計算式例:標準報酬月額 × 保険料率 × 1/2
2. 厚生年金保険
老齢・障害・死亡に対して支給される年金保険。
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負担割合:労使折半
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計算式例:標準報酬月額 × 厚生年金保険料率(18.3%) × 1/2
3. 介護保険
40歳以上の従業員に適用される介護保険。
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負担割合:労使折半
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計算式例:標準報酬月額 × 介護保険料率
4. 雇用保険
失業や再就職支援に使われる保険。
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負担割合:事業者と従業員で負担(業種により比率が異なる)
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計算式例:賃金総額 × 雇用保険料率 × 事業者負担割合
5. 労災保険
業務中の事故やケガに対して給付される保険。
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負担割合:事業者100%
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計算式例:賃金総額 × 労災保険料率
6. 子ども・子育て拠出金
国や自治体の子育て支援のための事業者負担金。
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負担割合:事業者100%
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計算式例:標準報酬月額 × 拠出金率
福利厚生費との違い
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法定福利費:法律で支払いが義務付けられた費用
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福利厚生費(法定外福利費):会社独自の手当や制度で、任意負担の費用
例えば、社宅の家賃補助や社員旅行は福利厚生費として扱われますが、法定福利費とは区別して管理する必要があります。
法定福利費の計算例
例えば、標準報酬月額36万円の従業員がいる場合、東京都の健康保険率9.87%、介護保険率1.79%で計算すると:
| 保険の種類 | 事業者負担額(月) |
|---|---|
| 健康保険 | 17,766円 |
| 厚生年金 | 32,940円 |
| 介護保険 | 3,222円 |
| 雇用保険 | 200円 |
| 労災保険 | 1,000円 |
| 子ども・子育て拠出金 | 1,296円 |
合計:56,424円/月
法定福利費の仕訳例
1. 給与から天引きした場合
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 給料 200,000円 | 普通預金 180,000円 |
| 預り金 20,000円 |
2. 翌月末に納付する場合
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 法定福利費 20,000円 | 普通預金 40,000円 |
| 預り金 20,000円 |
※預り金を省略した簡略仕訳も可能です。
建設業の法定福利費:見積書での内訳表示
建設業では、作業員の法定福利費を見積書で内訳表示することが義務付けられています(平成29年9月より)。
工事ごとに労務費を算出し、法定福利費を加算して明示することで、元請・発注者とのトラブル防止や適正利益の確保につながります。
内訳作成の手順
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工事ごとの労務費を計算
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労務費 = 所要人工数 × 平均日額
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労務費を基に法定福利費を算出
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見積書に法定福利費を明示
まとめ
法定福利費は、法律で義務付けられた社会保険・労働保険などの費用で、企業の経理・給与計算に直結する重要項目です。
計算や仕訳を正しく理解し、建設業などでは見積書で内訳表示することで、適正な経営と従業員保護につながります。
経理担当者や経営者は、法定福利費と福利厚生費の違いを正確に把握し、帳簿付けや見積書作成でミスを防ぎましょう。
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