企業が保有する固定資産などは、長期的に収益を生み出すことを前提に取得されます。
しかし、経営環境の変化や投資判断の誤りによって、その資産の価値が大きく下がることがあります。
こうした場合に行う会計処理が「減損会計」、その際に発生する損失を「減損損失」といいます。
本記事では、減損損失の基本的な考え方から計算方法、財務諸表への影響まで、初心者にもわかりやすく解説します。
減損損失とは
減損損失とは、企業が保有する資産の「投資額を回収できなくなった部分」を示す損失です。
たとえば、設備投資を行った工場が想定どおりの利益を生み出せなくなった場合、その資産の価値を下げて損失として計上します。
これは企業の経営実態を財務諸表に正しく反映するために重要な処理です。
上場企業や会社法上の大会社では、会計基準により減損会計の適用が義務付けられています。
減損会計の対象となる資産
減損会計の対象は、貸借対照表の「固定資産」に計上されている以下の3区分です。
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有形固定資産(例:土地、建物、機械装置など)
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無形固定資産(例:特許権、ソフトウェアなど)
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投資その他の資産(例:関連会社株式など)
ただし、金融資産や繰延税金資産、研究開発目的のソフトウェアなど、別の会計基準で処理が定められているものは対象外となります。
減損損失を認識するまでの流れ
減損損失を計上するには、いくつかのプロセスを経る必要があります。
主な手順は次の4つです。
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資産のグルーピング
収益を生み出す最小単位(例:工場や店舗)ごとに資産をグループ化します。 -
減損の兆候の把握
営業赤字が続く、資産の市場価格が大幅に下落するなど、減損の可能性を示す兆候を確認します。 -
減損損失の認識の判定
グループごとに、帳簿価額と「割引前将来キャッシュ・フロー(将来得られるキャッシュフローの合計)」を比較します。
もし将来キャッシュフローが帳簿価額を下回る場合は、減損損失を認識します。 -
減損損失の測定
実際にどの程度の損失を計上するかを測定します。
その際には「使用価値」と「正味売却価額」のうち高い方の金額を用いて評価します。
減損損失の計算方法
減損損失額は、次の計算式で求められます。
減損損失額 = 固定資産の帳簿価額 − 回収可能価額
ここで、回収可能価額とは次のいずれか高い方の金額をいいます。
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使用価値:将来キャッシュフローの現在価値
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正味売却価額:時価から処分費用を差し引いた金額
この算定には高度な判断が必要なため、公認会計士など専門家の助言を受けることが望まれます。
減損損失の会計処理方法
減損損失を計上する方法には、主に次の2つがあります。
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直接控除方式
固定資産の帳簿価額を直接減額し、その差額を損失として処理します。 -
間接控除方式
「減損損失累計額」などの控除項目を別途設定し、資産の評価額を間接的に減額します。
どちらの方法を選択するかは、企業の会計方針によります。
財務諸表への影響
減損損失を計上すると、以下のように財務諸表に影響します。
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損益計算書
減損損失は「特別損失」として計上され、当期純利益を押し下げます。 -
貸借対照表
資産の帳簿価額が減額されるため、総資産額が小さくなります。 -
キャッシュフロー計算書
減損損失は非資金項目であるため、営業活動によるキャッシュフローには直接影響しませんが、投資活動の減少要因として考慮される場合があります。
減損損失が発生しやすいケース
次のような企業では、減損損失が発生しやすい傾向があります。
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長期的に赤字が続く事業部門を抱えている
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設備投資の規模が大きく、景気変動の影響を受けやすい
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海外拠点や関連会社への投資額が大きい
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ITシステムや不動産など、価値変動が激しい資産を保有している
まとめ
減損損失は、企業の資産価値を適切に反映し、投資家や債権者に正確な経営状況を示すために欠かせない会計処理です。
特に、固定資産の収益性が低下していると感じたら、早期に減損の兆候を把握し、専門家と連携して正確な評価を行うことが大切です。
経営判断の透明性を高め、企業価値を守るためにも、減損会計の基本をしっかり理解しておきましょう。
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