海外子会社を持つ企業や外貨建て取引を行う会社では、為替換算調整勘定(かわせかんさんちょうせいかんじょう)という言葉を目にすることがあります。
しかし、為替差損益と似ているようで実は全く異なる勘定科目です。
この記事では、連結会計や外貨建会計の基本を押さえながら、為替換算調整勘定の意味や仕組み、具体例までわかりやすく解説します。
1. 為替換算調整勘定とは?
為替換算調整勘定とは、連結財務諸表を作成する際に生じる換算差額を調整するための勘定科目です。具体的には、親会社が在外子会社を連結する場合に、親会社の持分相当額として純資産の部に表示されます。非支配株主の持分は「非支配株主持分」に含めて表示されます。
ポイントは以下です:
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発生:連結財務諸表作成時
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勘定科目:純資産
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損益への影響:なし(未実現の換算差額)
つまり、在外子会社の経営成績とは無関係で、損益項目ではなく純資産項目として計上されます。
2. 為替差損益との違い
| 項目 | 為替差損益 | 為替換算調整勘定 |
|---|---|---|
| 発生 | 個別財務諸表 | 連結財務諸表 |
| 勘定科目 | 損益 | 純資産 |
| 性質 | 実現 | 未実現 |
為替差損益は、外貨建取引や外貨保有により実際の損益が発生するのに対し、為替換算調整勘定は換算手続の違いによって生じる差額であり、利益や損失ではありません。
3. 在外子会社の換算方法
在外子会社の財務諸表を連結する際には、項目ごとに異なる為替レートを使用します。
| 為替レート | 意味 |
|---|---|
| HR(Historical Rate) | 取得時や取引発生時の過去レート |
| AR(Average Rate) | 期中平均レート |
| CR(Current Rate) | 決算時レート |
各項目の換算方法
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損益計算書
収益・費用・当期純利益 → 期中平均レート(AR) -
貸借対照表の資産・負債
→ 決算時レート(CR) -
純資産(資本金・利益剰余金)
→ 支配獲得時レート(HR)、利益剰余金は当期純利益に応じてAR
この換算方法の違いが、為替換算調整勘定が生じる主な理由です。
4. 為替換算調整勘定が生じる仕組み
例えば、資産と負債は決算時レート(CR)で換算するのに、純資産はHRやARで換算すると、貸借の合計が一致しなくなることがあります。この差額を調整するのが為替換算調整勘定です。
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資産と負債はCR換算
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純資産はHR/AR換算
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差額 → 為替換算調整勘定として計上
逆に、純資産もCRで換算すれば差額は生じず、為替換算調整勘定は不要です。
5. 計算例で理解する
設例1:為替換算調整勘定が発生しない場合
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資産:100ドル、負債:50ドル、純資産(資本金のみ):50ドル
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HR=CR=110円、AR=105円
資産・負債・純資産を換算すると、すべて同じレートで計算されるため、為替換算調整勘定は0円です。
設例2:為替換算調整勘定が発生する場合
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資産:120ドル、負債:50ドル、純資産:70ドル(資本金50ドル+利益剰余金20ドル)
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HR=110円、AR=115円、CR=120円
換算の結果:
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資産(CR):14,400円
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負債+純資産(HR/AR):13,800円
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差額:600円 → 貸方に為替換算調整勘定として計上
このように、資産・負債と純資産の換算レートの差額が為替換算調整勘定として計上されます。
6. 税効果会計の適用について
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在外子会社の株式を売却する予定がない場合 → 為替換算調整勘定には税効果会計を適用しない
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株式を売却予定がある場合 → 税効果会計を適用し、繰延税金資産・負債を調整
為替換算調整勘定は、原則として損益にならない未実現差額であるため、株式売却の予定がなければ税金に影響しません。
7. まとめ
為替換算調整勘定は、連結財務諸表作成時に生じる純資産の換算差額を調整する重要な勘定科目です。
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損益項目ではなく純資産項目
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資産・負債のCR換算と純資産のHR/AR換算のズレで発生
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税効果会計は売却予定の有無で適用可否が変わる
初心者でも、換算レートの違いや計算例を理解することで、為替換算調整勘定の意味や仕組みを把握しやすくなります。
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