棚卸資産(商品や原材料など)の評価方法にはいくつかの種類がありますが、その中でも実務でよく使われるのが「移動平均法(いどうへいきんほう)」です。
この記事では、
-
移動平均法の意味
-
計算式とわかりやすい具体例
-
総平均法との違い
-
メリット・デメリット
までを、会計初心者の方にも理解しやすく解説します。
🔹 移動平均法とは
移動平均法とは、棚卸資産の評価方法のひとつで、仕入れのたびに平均単価を更新していく方法です。
在庫の単価をリアルタイムで把握できるため、価格変動が大きい商品を扱う企業に向いています。
👉 簡単に言うと、「新しく仕入れるたびに、今ある在庫と合わせて“平均の仕入れ単価”を計算し直す方法」です。
🔹 計算式
移動平均単価の計算式は以下のとおりです。
移動平均単価 =(受入前棚卸資産の評価額 + 今回受入金額) ÷(受入前棚卸資産数量 + 今回受入数量)
そして、
期末棚卸高(評価額) は、
期末棚卸高 = 期末棚卸数量 × 直近の移動平均単価
で求めます。
🔹 移動平均法の具体例(図解付きで理解)
たとえば、次のようなケースを考えてみましょう。
日付 | 取引内容 | 数量(個) | 単価(円) | 合計(円) | 平均単価(円) |
---|---|---|---|---|---|
4月1日 | 期首在庫 | 10 | 100 | 1,000 | 100 |
4月5日 | 仕入 | 5 | 120 | 600 | (1,000+600)÷(10+5)=106.7 |
4月10日 | 販売 | 8 | ― | ― | 106.7で評価 |
4月20日 | 仕入 | 7 | 130 | 910 | (7×130 + 残在庫7×106.7)=118.4 |
4月末 | 棚卸 | 残7 | ― | 7×118.4=828.8円 | ― |
このように、仕入れのたびに平均単価を再計算するのが「移動平均法」です。
在庫の実勢に近い単価を常に反映できるのが特徴です。
🔹 総平均法との違い
移動平均法とよく比較されるのが「総平均法(そうへいきんほう)」です。
違いを表でまとめてみましょう。
項目 | 移動平均法 | 総平均法 |
---|---|---|
計算のタイミング | 仕入れの都度 | 期末にまとめて計算 |
平均単価の変動 | 都度変動する | 期末まで固定 |
処理の手間 | やや複雑 | 簡単 |
正確性 | 高い(実勢に近い) | やや低い(価格変動を反映しにくい) |
👉 ポイント:
移動平均法は「リアルタイムの原価把握が必要な業種(製造・卸売など)」に向いており、
総平均法は「取引が多くても精度より手間を省きたい業種(小売など)」に向いています。
🔹 移動平均法のメリット
-
原価の変動をすぐに反映できる
仕入価格の変化をその都度平均化するため、最新の在庫単価を常に把握できます。 -
リアルタイムでの損益把握が可能
在庫単価が更新されるたびに正確な粗利益を算出できるため、経営判断がしやすくなります。 -
実勢価格に近い評価ができる
価格変動の激しい商品(原材料・燃料など)を扱う業種に適しています。
🔹 移動平均法のデメリット
-
会計処理が煩雑になりやすい
仕入れのたびに平均単価を再計算するため、手作業では管理が大変です。 -
棚卸計算法には適用できない
移動平均法は「払出単価の決定方法」に適した評価法であり、棚卸数量の計算(実地棚卸)には使えません。 -
小規模事業者には向かない場合も
取引数が多いと手間が増えるため、総平均法のほうが実務上スムーズなこともあります。
🔹 会計基準上の位置づけと注意点
日本の会計基準(企業会計原則)では、棚卸資産の評価方法として
-
先入先出法
-
総平均法
-
移動平均法
-
売価還元法
などが認められています。
ただし、いったん採用した評価方法は毎期継続して適用する必要があります(原則として変更不可)。
変更する場合は「正当な理由」が必要となるため、会計方針の一貫性に注意しましょう。
🔹 まとめ:移動平均法は「リアルタイム原価管理」に強い!
項目 | 内容 |
---|---|
定義 | 仕入れのたびに平均単価を更新して在庫評価する方法 |
計算式 | (受入前棚卸資産評価額+今回受入金額)÷(受入数量合計) |
向いている企業 | 製造・卸売業など、価格変動の影響を受けやすい業種 |
メリット | 最新原価を反映できる・損益把握が正確 |
デメリット | 処理が煩雑・棚卸計算法に使えない |
さらに参照してください: