在庫や原材料などの棚卸資産の評価は、企業の利益や経営判断に直結します。
その中でも「移動平均法」は、受け入れのたびに平均単価を更新しながら在庫評価を行う手法として、多くの事業者に採用されています。
本記事では、移動平均法の基本、具体的な計算例、メリット・デメリット、総平均法との違いなどを、初心者にもわかりやすく解説します。
1. 移動平均法とは?
移動平均法とは、棚卸資産の評価方法のひとつで、仕入れるたびに在庫全体の単価を「加重平均」して新しい平均単価を定め、そこから払出単価を決定する手法です。
具体的には:
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受入れ前の在庫評価額と在庫数量を持ち出し
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仕入れ分の金額と数量を加算
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合計金額 ÷ 合計数量 = 新しい平均単価
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この平均単価で払出(販売・使用分)を評価
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期末在庫は、期末数量 × 最終平均単価
こうして、リアルタイムで在庫の単価を更新し続けることが特徴です。
2. 移動平均法を使う必要性・意義
移動平均法を使う理由やメリットを確認しておきましょう。
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価格変動を反映できる
仕入単価が変動する場合でも、最新の平均単価が在庫に反映されます。 -
利益の精度向上
実際の払出単価が平均化されているため、売上原価のズレを防ぎやすくなります。 -
在庫の実勢把握
期中でも在庫評価が可能なので、経営判断や資金繰りに役立ちます。
逆に、価格変動が少ない商品や、取扱点数が少ない業種では過剰な手間になることもあります。そのあたりは後述します。
3. 移動平均法の計算方法と具体例
3.1 計算式(標準形)
移動平均法の基本式は次のとおりです:
移動平均単価 = (受入前在庫評価額 + 今回受入金額) ÷ (受入前在庫数量 + 今回受入数量)
そして、期末在庫評価額は:
期末在庫評価額 = 期末在庫数量 × 最新移動平均単価
3.2 具体例
以下のような取引を例にして計算してみましょう。
日付 | 取引 | 数量 | 単価(円) | 金額 |
---|---|---|---|---|
2月1日 | 期首在庫 | 100 | 100 | 10,000 |
3月1日 | 仕入 | 50 | 120 | 6,000 |
4月1日 | 仕入 | 120 | 90 | 10,800 |
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3月1日時点での新平均単価:
(10,000+6,000)÷(100+50)=106.67円(10,000 + 6,000) ÷ (100 + 50) = 106.67円 -
4月1日時点で再計算:
在庫数量:150個、在庫評価額:150 × 106.67 = 16,000円(四捨五入等あり)
受入金額:120個 × 90円 = 10,800円
(16,000+10,800)÷(150+120)=101.25円(16,000 + 10,800) ÷ (150 + 120) = 101.25円 が新平均単価
以降、払出(販売・使用)にはこの単価を用いて原価を認識します。
3.3 商品有高帳を使った記録例
商品有高帳(補助簿)を使って、各取引ごとに受入・払出・残高を記録すると、各時点在庫の数量・単価・金額が一目でわかります。
上記例を有高帳に落とすと、4月1日の払出分などの記録が単価 101.25円で行われます。
4. 移動平均法のメリットとデメリット
✅ メリット
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更新が都度行われるため最新単価を反映できる
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在庫と原価管理の制度変動に強い
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単一の単価で払出されるため計算の一貫性がある
⚠ デメリット
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仕入れのたびに計算が発生するので処理負荷が高い
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取扱商品が多いと管理が煩雑になる
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棚卸計算法(実地棚卸)とは一部相性が悪い
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四舍五入・端数処理に注意が必要
中小企業や商品数の少ない業種で導入すると、運用コストがかさむことがあります。導入前に費用対効果を検討することが重要です。
5. 移動平均法と総平均法の違い・使い分け
移動平均法も総平均法も、平均原価法(加重平均法)のカテゴリに入りますが、使い方や特性が異なります。
特性 | 移動平均法 | 総平均法 |
---|---|---|
計算タイミング | 受入のたび | 期末にまとめて計算 |
単価変動の反映 | よく反映する | 期末だけ反映 |
手間 | 高い | 比較的低い |
精度 | 高め | やや粗め |
たとえば、価格変動が激しい材料を扱う製造業では移動平均法が適しています。
一方、価格変動があまりない商品を扱う小売業では総平均法でも十分対応可能です。
6. 導入時の注意点と運用上のコツ
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会計方針の継続適用
評価方法を採用したら、原則として毎期継続して適用する必要があります。 -
自動化ツールの活用
会計ソフトやERPが移動平均法対応していれば手計算の手間を軽減できます。 -
端数処理の方法を統一
四捨五入・切捨てなど処理ルールを明確に定め、仕訳のばらつきを防ぎましょう。 -
適用範囲を明確に
すべての商品に対して適用するか、価格変動リスクの高い商品のみ適用するかなどを定めておくと管理しやすくなります。
7. まとめ:移動平均法でより正確な原価管理を
移動平均法は「在庫単価をリアルタイムに更新する」ことで、原価精度の向上や経営判断の材料として非常に有効な手法です。
ただし、運用の手間や処理負荷を考慮した上で、業種・商品構成・人的リソースを勘案しながら導入を判断すべきです。
あなたの事業に適した原価評価法を選び、安定した利益管理につなげていきましょう。
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