企業の債権管理では、「貸倒懸念債権」を正しく把握することが欠かせません。
回収不能リスクを正確に見積もることで、適切な貸倒引当金を設定し、財務の健全性を維持することができます。
この記事では、貸倒懸念債権の定義、判定基準、そして具体的な仕訳処理までわかりやすく解説します。
貸倒懸念債権とは
貸倒懸念債権とは、債務者がまだ経営破綻には至っていないものの、返済に大きな支障がある、または今後その可能性が高い債権を指します。
英語では “doubtful accounts receivable” と呼ばれ、一般債権と破産更生債権の中間的な位置づけにあります。
債権をこのように区分する目的は、貸倒見積高を合理的に算出し、適正な貸倒引当金を設定するためです。
通常、貸倒懸念債権は貸借対照表上では売掛金などと区分せずに表示されますが、引当金は資産の控除項目として処理されます。
貸倒懸念債権の判定基準
金融商品会計に関する実務指針では、貸倒懸念債権は以下のように定義されています。
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債務の返済に重大な問題が発生している、または弁済条件の大幅な緩和が行われている。
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債務者の業績や財務内容が不安定で、一部弁済が困難となる可能性が高い。
実務上は、取引先の財務諸表や信用調査(帝国データバンクなど)を通じて、返済能力を評価します。
貸倒見積高の算定方法
貸倒懸念債権に対しては、主に以下の2つの方法で貸倒見積高を算定します。
1. 財務内容評価法
債務者の財務状況や経営成績を考慮し、担保・保証による回収見込額を差し引いた残額に一定の設定率を乗じて貸倒見積高を求めます。
例:
売掛金残高100万円、担保処分見込10万円、設定率50%
→(100万円-10万円)×50%=45万円
仕訳:
借方|貸倒引当金繰入 450,000円
貸方|貸倒引当金 450,000円
2. キャッシュフロー見積法
将来のキャッシュフローを合理的に見積もり、その割引現在価値と帳簿価額の差額を貸倒見積高とします。
例:
貸付金100万円、将来キャッシュフローの現在価値80万円
→ 100万円-80万円=20万円
仕訳:
借方|貸倒引当金繰入 200,000円
貸方|貸倒引当金 200,000円
表示と会計処理のポイント
貸倒懸念債権は、一般債権と区別して勘定科目を設ける必要はありません。
ただし、引当金の計上区分は以下のように区別されます。
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営業債権(売掛金など) → 販売費及び一般管理費
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営業外債権(貸付金など) → 営業外費用
これにより、損益計算書上の位置づけが明確になり、会計上の整合性を保つことができます。
まとめ:貸倒懸念債権を正しく理解してリスク管理を徹底しよう
貸倒懸念債権は、企業の信用管理において重要な警戒シグナルです。
早期に把握し、適切に貸倒引当金を設定することで、財務の安定と健全経営を支えることができます。
取引先の動向を定期的にチェックし、債権の健全性を常に確認しておきましょう。
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