企業会計の世界では、「費用」「原価」「損金」という似た言葉が頻繁に登場します。
一見どれも「お金が出ていくこと」を指すように見えますが、実はそれぞれ異なる意味を持っています。
この記事では、公認会計士監修のもと、「費用とは何か」「原価や損金との違い」「費用を計上するタイミング」について、初心者にもわかりやすく解説します。
費用とは
費用とは、企業の事業活動を行う上で発生するあらゆるコストのことです。
損益計算書(P/L)においては、収益と並んで「期間損益」を計算するための重要な要素となります。
企業の費用は大きく以下のように分類されます。
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売上原価:商品や製品の仕入・製造に直接かかった費用
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販売費及び一般管理費:人件費や家賃、通信費など、日常の営業活動に伴う費用
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営業外費用:支払利息や社債利息など、本業以外で発生した費用
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特別損失:災害損失や固定資産売却損など、臨時的な損失
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法人税等:法人税や住民税、事業税など
つまり、費用とは「企業の収益を得るために使った全てのコスト」を表すものです。
費用と原価の違い
「費用」と「原価」は似ていますが、次のように範囲が異なります。
| 用語 | 意味 | 対象となる範囲 |
|---|---|---|
| 原価 | 売上高に直接対応するコスト | 商品の仕入原価、製造原価など |
| 費用 | 企業活動全体で発生するコスト | 原価・販売費・管理費・損失などすべてを含む |
つまり、原価は費用の一部に過ぎません。
売上と直接結びつくコストが「原価」、それ以外も含めた広い概念が「費用」です。
法人税法第22条第3項では、原価と費用を明確に区分しており、以下のように定義されています。
一 収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価
二 販売費、一般管理費その他の費用
三 損失
出典:法人税法|e-Gov
このように、法律上でも「費用」は原価や損失を包括する概念であることがわかります。
費用と損金の違い
「損金」とは、税務上の概念です。
法人税を計算する際に、課税所得を求めるために「益金(収益)」から差し引くことができる金額を指します。
会計上の「費用」と税務上の「損金」はおおむね同じ方向を向いていますが、完全に一致するわけではありません。
たとえば次のようなズレが生じます。
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会計上は費用として計上しても、税務上は損金に認められない(損金不算入)
例:交際費の一部、役員賞与など -
会計上は費用でなくても、税務上は損金にできる(損金算入)
例:減価償却超過額の一部など
この違いは、企業会計の目的が「適正な期間損益の計算」であるのに対し、税務の目的が「公平な課税」であるために生じます。
費用計上のタイミング
費用は「発生主義」に基づいて計上されます。
これは、現金の支払い時点ではなく、「費用が発生した時点」で認識するという考え方です。
たとえば、次のようなケースがあります。
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消耗品を購入した場合:購入した時点で費用計上
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従業員の給料:勤務が終わった月の費用として計上(支払いは翌月でも可)
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広告費や賃貸料:契約期間に応じて按分して費用計上
発生主義を正しく理解していないと、利益や費用の期間ズレが生じ、正しい損益計算ができなくなります。
まとめ
費用とは、企業が収益を上げるために必要なすべてのコストを指します。
原価はそのうち「売上に直接結びつく部分」、損金は「税務上で控除できる部分」と覚えると整理しやすいでしょう。
| 概念 | 主な対象 | 使用される分野 |
|---|---|---|
| 費用 | 売上原価、販管費、損失など | 会計 |
| 原価 | 製造・仕入コスト | 会計 |
| 損金 | 税務上控除できる金額 | 税務 |
正確に理解することで、会計処理や税務申告の精度が向上し、不要な税務リスクを回避することができます。
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