企業が従業員に支払う「退職金」や「退職年金」は、実は将来支払うものでも会計上は現在の費用や負債として扱われます。
その中心となる概念が 退職給付債務(たいしょくきゅうふさいむ)。
上場企業の決算や人件費計画を理解するうえで欠かせない項目です。
この記事では、退職給付債務の意味、計算方法、基礎率などを、初心者でもスッと理解できるように整理して解説します。
退職給付債務とは?将来支払う退職金の「現時点の負債」
退職給付債務とは、将来従業員に支払う予定の退職金・退職年金のうち、すでに従業員が働いた期間に対応して発生している部分を現在価値で見積もった金額です。
ポイントはこの2つ。
・「退職時」ではなく「現在」すでに発生している
・将来支払う金額を現在価値に割り引いて算定する
たとえば、勤続20年の従業員の退職金が、最終的に500万円になると見込まれていたとしても、現時点ではその全額が負債ではなく、働いた年数分だけが債務として計上されるイメージです。
誰が計算しなければいけない?原則法が必要な企業
従業員数が 300人以上の企業 では、退職給付債務を計算する際に 原則法(Projected Benefit Obligation:PBO) を使う必要があります。
原則法では、次のように退職金・年金を計算します。
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従業員が退職した時点で受け取る退職金・年金総額を見積もる
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支給までに残っている期間を基に、現在価値に割り引く
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現時点までに「勤務実績として発生している部分」を計上する
つまり、未来の支払額をそのまま計上するのではなく、時間価値を考慮して算定するのが特徴です。
退職給付債務を算定するための4つの基礎率
退職給付債務は未来を見積もる必要があるため、次のような「基礎率」を用います。
・割引率(市場金利などを参考に決定)
・退職率(どれくらいの従業員が退職するか)
・死亡率(年金受給期間の見積もりに使用)
・予定昇給率(給与がどれくらい上がるか)
これらの見積もりは、企業の財務状態や労働環境によって大きく変わります。
特に割引率の変動は退職給付債務に大きく影響するため、決算書の注記でも重要項目として扱われます。
退職給付引当金との関係:積立不足分は負債として計上
企業が年金資産や積立金を十分に保有している場合、退職給付債務をその資産で相殺できます。
しかし、積立が不足している場合は、その不足額を 退職給付引当金 として負債に計上します。
例えば、
退職給付債務 8000万円
年金資産 6000万円
であれば、差額の2000万円が退職給付引当金です。
企業の資金繰りや財務健全性を判断するうえでも、ここは重要なポイントになります。
まとめ
退職給付債務は、将来の退職金を「現在の負債」として正しく見積もるための重要な会計概念です。
企業規模が大きくなるほど計算方法は高度になり、基礎率の設定や積立状況が決算書の信頼性に直接関わります。
退職金制度を持つ企業、特に従業員数300名以上の会社では、適切な見積もりと開示が欠かせません。
会計や税務をしっかり理解したい人にとっても、押さえておきたい基礎知識のひとつです。
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