企業会計では、取引先や従業員にお金を貸し付ける場面が少なくありません。その中でも長期間の貸付は「長期貸付金」として扱われ、会計処理や税務上のルールが明確に定められています。
この記事では、長期貸付金とは何か、短期貸付金との違い、税務で気をつけるポイント、実務でのチェックポイントまで、専門家の視点でわかりやすく解説します。
長期貸付金とは
長期貸付金とは、決算日の翌日から1年を超える返済期限で、取引先・子会社・役員・従業員などに貸し付けた金銭のことをいいます。
会計上は金銭債権として扱われ、固定資産に計上されます。また、回収不能リスクに備えるため、原則として貸倒引当金の設定対象となります。
法人が長期貸付金の利息を受け取る場合、その利息は「受取利息」として計上され、貸借対照表の「投資その他の資産」に表示されます。
長期貸付金と短期貸付金の違い
両者の区分は、ワン・イヤー・ルールで判断します。
| 項目 | 長期貸付金 | 短期貸付金 |
|---|---|---|
| 返済期限 | 決算日の翌日から1年超 | 決算日の翌日から1年以内 |
| 貸借対照表区分 | 固定資産 | 流動資産 |
| 実務での扱い | 関係強化・福利厚生目的が多い | 一時的な資金繰り支援が多い |
なお、当初は長期であっても、決算時点で回収期限が1年以内になった場合は短期貸付金へ振替が必要になります。ここは実務でよくある質問です。
長期貸付金を設定する意義
長期貸付金には次のような目的があります。
● 関係会社の資金繰り支援
資金難の子会社や取引先に対し、金融機関より有利な利率で貸し付けるケースが一般的です。
● 従業員への福利厚生
住宅取得資金、教育資金、災害時の生活費など、長期で返済する従業員貸付も長期貸付金に分類されます。
● 企業間の関係強化
資金を安定的に供給することで、長期的取引関係を維持・強化する効果があります。
税務で注意したいポイント(重要)
長期貸付金は会計処理だけでなく、税務上の取り扱いに注意すべき事項が多い項目です。
● ① 無利息または低利息の場合の「経済的利益」の課税
従業員や役員へ低利で貸し付けた場合、
通常利率との差額が給与扱いとなり課税されることがあります。
特に、
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市場金利を大きく下回る
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利息がほぼない
-
長期間返済されない
といったケースでは、税務調査でもよく指摘されるポイントです。
● ② 取引先への低利貸付は「寄付金扱い」になる可能性
取引先に対する不自然に低い利率は、
利息相当分が寄付金と認定される可能性があります。
寄付金には損金算入限度額があるため、会社にとって不利な扱いになるケースも。
貸倒引当金とは|長期貸付金のリスク管理
長期貸付金は、回収までの期間が長いため、信用リスクが高くなります。
これに備えて計上するのが貸倒引当金です。
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将来の貸倒れに備える評価勘定
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資産の部から控除して表示される
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法人税法でも一定額の繰入が認められる
資金繰り支援のために貸付を行う会社ほど、貸倒リスク管理の重要性は高まります。
まとめ:長期貸付金は会計・税務の両面で正確な理解が不可欠
長期貸付金とは、1年を超える返済期間で貸し付けた金銭であり、固定資産として計上される重要な勘定科目です。
短期貸付金との違いはワン・イヤー・ルールで明確に区分され、税務では低利貸付による経済的利益の課税や寄付金認定など、注意すべきポイントも多く存在します。
企業が従業員や関係会社との信頼関係を深めつつ、正しい会計処理を行うためにも、貸倒引当金の設定や利率の妥当性をしっかり確認することが大切です。
必要に応じて、税理士や会計専門家への相談も検討するとよいでしょう。
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