売上原価率とは

売上原価率とは?計算式・業界平均・高い原因と改善方法を徹底解説

企業経営や会計を学ぶうえで、売上原価率(うりあげげんかりつ)は非常に重要な指標です。
この記事では、次の内容を初心者にもわかりやすく、かつ実務経験に基づく視点も含めて説明します。

  1. 売上原価率とは何か

  2. 売上原価率の計算式

  3. 売上原価率からわかること

  4. 業界別平均値・目安

  5. 売上原価率が高くなる原因

  6. 売上原価率を改善する方法

  7. 実際の計算例

  8. まとめ:経営判断における活用ポイント

 

1. 売上原価率とは何か?意味を押さえよう

売上原価率とは、売上高に対して「売上原価(商品の仕入れ・製造コスト等)」が占める割合を示す指標です。
別名「原価率」「コスト率」とも呼ばれることがあります。

この指標は、企業が販売した商品・サービスを提供する際に直接かかったコスト(原材料費・仕入れ費・製造直接費など)が、どの程度売上を圧迫しているかを把握するうえで、非常に重要です。

売上原価率が高いと、利益を確保する余地が小さいため、経営効率が低い可能性があります。逆に、売上原価率が低ければ、仕入れ・原料コストを効率的に抑えられていると判断できます。

なお、売上原価率と売上総利益率(粗利率)は表裏一体であり、売上原価率 + 売上総利益率 = 100% になります。

2. 売上原価率の計算式

売上原価率を求める基本式は次のとおりです。

売上原価率(%)= 売上原価 ÷ 売上高 × 100

ただし、売上原価は単に期中で発生した仕入高等ではなく、期間対応分の原価を正しく算定する必要があります。具体的には次のような式で求めます。

売上原価 = 当期仕入高 + 期首棚卸高 - 期末棚卸高

これは、期首から持ち越された在庫や期末時点の在庫を考慮して、販売に対応した原価部分だけを把握するためです。

3. 売上原価率からわかること:競争力・価格転嫁力・投資余力

売上原価率を適切に把握することで、以下のようなことが見えてきます。

  • 市場での競争力
     同業他社と比較して売上原価率が高ければ、仕入れ・調達力が弱い、取引条件が不利、あるいはスケールメリットが出ていない可能性があります。

  • 価格転嫁力
     原材料価格上昇時に、どの程度価格を転嫁できるかも売上原価率の変動で見えてきます。価格転嫁ができないと原価率が上昇し、利益率が圧迫されます。

  • 投資可能余力
     売上原価率が低い企業は、利益を確保しやすいため、広告宣伝・研究開発・設備投資などに資金を回せる余地が出てきます。

 

4. 売上原価率の業界別平均・目安

売上原価率は業界によって大きく異なります。下表は、近年の**経済産業省「企業活動基本調査」**などをもとにした業界別平均例です。

業種 売上原価率 平均例
製造業 約 81.1%
電気・ガス業 約 90.5%
情報通信業 約 67.3%
卸売業 約 87.1%
小売業 約 71.7%
飲食サービス業 約 51.4%
生活関連サービス・娯楽業 約 55.1%

(出典:経済産業省「企業活動基本調査/確報」等)

たとえば、飲食業では原材料コストや人件費が重くなる傾向があり、原価率は50%前後になることも珍しくありません。一方、情報通信業やサービス業では物的コストが少ないため、原価率は低めになる傾向があります。

ただし、「平均だから正解」ということではなく、同業他社や自社の過去実績との比較が重要です。

5. 売上原価率が高くなる主な要因

売上原価率が高くなってしまう原因として、以下のような点が挙げられます。

(1)仕入コストの上昇

為替変動、素材価格高騰、運賃の上昇などにより、仕入れコストが上がると原価率も上昇します。特に輸入原料を使用する企業は為替リスクの影響を受けやすいです。

(2)在庫過多・過剰仕入れ

需要に見合わない多量の在庫を抱えると、資金が在庫に固定され、販売機会に対応しづらくなります。また、在庫管理コストや劣化・滅失リスクも増します。

(3)ロス・廃棄・破損

旬が過ぎた商品、品質不良品、破損、期限切れの廃棄などロスが多いと、原価として回収できないコストが増え、原価率を押し上げます。

(4)低利益率商品・価格競争

粗利率がもともと低い商品を多く扱っていたり、値引きやセールを頻繁に行うと、原価率が高まり利益が薄くなります。

(5)生産効率の低さ・稼働率の低下

製造業の場合、稼働率が低かったり設備の停止時間が長かったりすると、固定費が製造コストに上乗せされて実質的な原価率が高まります。

6. 売上原価率を改善する具体的な方法

原価率を改善して利益率を高めるためには、以下のような方策が有効です。

① 仕入れ・原材料調達の見直し

  • 複数仕入先の比較・交渉強化

  • 仕入れロットの見直し(ボリュームディスカウント活用)

  • 地産地消や代替材料の利用検討

② 在庫管理・発注管理の最適化

  • JIT(ジャストインタイム)方式やABC分析による在庫最適化

  • データ分析による需要予測

  • 在庫回転率を上げ、デッドストックを減らす

③ ロス低減の仕組みづくり

  • 品質管理・検査体制強化

  • 廃棄ロスの削減(リサイクル、再加工など)

  • 日付管理(賞味・消費期限)や品揃え調整

④ 商品ミックスの最適化

  • 粗利率の高い商品・付加価値の高い商品を強化

  • セット販売、付帯サービスの導入

  • 低収益商品の縮小・撤退

⑤ 生産効率・稼働効率の改善

  • 設備の稼働率向上、夜間稼働やシフト最適化

  • 作業標準化・自動化・省力化

  • アウトソーシング検討

 

7. 実際の計算例で理解しよう

たとえば、以下のような売上・原価のデータをもとに、売上原価率を計算してみます。

  • 売上高:1,000万円

  • 当期仕入高:600万円

  • 期首棚卸高:100万円

  • 期末棚卸高:80万円

まず、売上原価を計算:

売上原価 = 600 + 100 − 80 = 620万円

次に、売上原価率:

売上原価率(%)= 620 ÷ 1,000 × 100 = 62.0%

この例では、売上の62%が原価にかかっているということになります。
売上原価率が62%というのは比較的良い水準といえ、残り38%が売上総利益(粗利)になります。

8. まとめと経営判断における活用ポイント

売上原価率は、経営状態を把握するうえで欠かせない基本指標のひとつです。
ただし、次の点に留意しながら使うことが大切です。

  • 同業他社や過去実績との比較が必須

  • 単年度だけでなく複数年度の推移を確認

  • 原価率改善だけを追うと品質低下リスクもあるのでバランス重視

  • 改善策は複合的に(仕入・在庫・ロス・効率)取り組む

さらに参照してください:

売上総利益(粗利益)とは?意味・計算方法・改善のコツをわかりやすく解説