企業会計では「まだ発生していないけれど、将来発生するかもしれない債務」が存在します。
それが 「偶発債務(ぐうはつさいむ)」 です。
本記事では、偶発債務の意味から、仕訳のやり方、引当金との違い、会計基準における注記のルールまでを、実務経験のある会計専門家がわかりやすく解説します。
🔍 偶発債務とは?簡単に言うと…
偶発債務とは、まだ現実には発生していないが、将来一定の条件が成立したときに発生する可能性がある債務のことです。
たとえば、
-
他社の借入金の保証人になっている場合
-
手形を裏書譲渡している場合
などが典型的な例です。
これらは現時点では負債ではありませんが、将来「保証人として支払い義務が生じる」「手形が不渡りになる」といった事態が起これば、実際の債務として確定します。
💡 偶発債務の特徴
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| 発生のタイミング | 将来の条件が成立したとき |
| 金額の確実性 | 正確な金額を予測できない |
| 会計処理 | 発生時点では負債に計上しない(注記で対応) |
| 表示方法 | 貸借対照表に注記として開示 |
🧾 偶発債務の仕訳例(保証債務の場合)
たとえば、A社の5,000,000円の債務に対して保証人になった場合、以下のように処理します。
(1)保証契約を締結したとき
偶発債務が発生した時点では、備忘記録としての仕訳を行います。
この段階では、実際の支払い義務は発生していません。
(2)A社が返済を完了した場合
保証リスクがなくなったため、備忘記録を取り消します。
(3)A社が返済不能になった場合
保証人が代わりに返済した場合、債務が確定します。
続いて、A社に対して求償権(返してもらう権利)が発生します。
このように、偶発債務は「条件付きの潜在的負債」であり、発生の可能性が現実化したときに初めて確定処理を行います。
⚖️ 偶発債務と引当金の違い
偶発債務と似た概念に「引当金」がありますが、両者は明確に異なります。
| 項目 | 偶発債務 | 引当金 |
|---|---|---|
| 発生の状態 | 条件が成立したら発生 | 発生が見込まれる損失を見積もる |
| 金額の見積 | 不確実で予測困難 | 合理的に見積可能 |
| 会計処理 | 貸借対照表に注記 | 負債として計上 |
| 例 | 保証債務、係争中の訴訟など | 賞与引当金、退職給付引当金など |
👉 発生可能性が高く、かつ金額が合理的に見積もれる場合は、偶発債務ではなく「引当金」として計上します。
🏛 会計基準における偶発債務の扱い
📘 財務諸表等規則第58条
偶発債務がある場合には、その内容及び金額を注記しなければならない。
ただし、重要性が乏しい場合は注記を省略できます。
📙 企業会計原則注解(第18項)
発生の可能性が低い偶発事象に係る費用や損失については、引当金を計上してはならない。
つまり、偶発債務は「実際に発生していない」ため、貸借対照表には計上せず、注記(脚注)で説明する形になります。
🧮 具体的な注記例
当社は、A社に対して5,000,000円の債務保証を行っております。
当該保証に係る偶発債務の発生可能性は低いものと判断しております。
このように、企業は投資家や債権者が財務リスクを正しく理解できるよう、偶発債務の内容・金額・発生可能性などを開示する必要があります。
💬 まとめ:偶発債務を正しく理解してリスク管理を
偶発債務は、「今は見えないけれど、将来負債になるかもしれない」リスクの象徴です。
適切に注記・開示を行うことで、企業の財務状況をより正確に伝え、投資家や取引先との信頼関係を維持することができます。
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