企業の会計処理をしていると、「繰延資産(くりのべしさん)」という言葉を目にすることがあります。
費用なのに資産として扱われる少し特殊な存在――それが繰延資産です。
この記事では、繰延資産の基本的な考え方から償却方法、仕訳例、そして実務での活用事例まで、初心者の方にもわかりやすく解説します。
会計処理や法人税申告の精度を上げたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
📘 繰延資産とは?簡単に言うとこんな資産
繰延資産とは、一時的な支出でありながら、将来的に効果が続く費用を資産として一時的に計上するものです。
支出の効果が複数年度に及ぶ場合、その費用を一度に計上せず、数年に分けて「費用化」することが認められています。
たとえば、会社設立費や広告宣伝費の一部は、支出後も長期にわたって効果が続くため繰延資産として扱われます。
💡 ポイント
費用だけどすぐに経費にせず、資産として計上
数年間にわたって少しずつ償却(費用化)
貸借対照表の「資産の部」に表示される
💡 繰延資産と他の資産(流動資産・固定資産)との違い
繰延資産は「資産の部」に分類されますが、他の資産とは性質が異なります。
| 資産区分 | 内容 | 現金化までの期間 | 財産価値 |
|---|---|---|---|
| 流動資産 | 現金・預金、売掛金など | 1年以内 | あり |
| 固定資産 | 建物、土地、機械設備など | 1年以上 | あり |
| 繰延資産 | 長期効果のある費用 | 関係なし | 実質なし |
つまり、繰延資産は「財産的価値」ではなく「支出効果の継続期間」を基準に扱われる点が特徴です。
🧾 会計上の繰延資産の種類(5つ)
企業会計原則では、以下の5種類の繰延資産が認められています。
| 区分 | 内容 | 償却期間の目安 |
|---|---|---|
| 創立費 | 会社設立に要した費用(登記費用・総会費など) | 5年以内 |
| 開業費 | 事業開始前の準備費用(広告費・賃借料など) | 5年以内 |
| 開発費 | 新技術・新事業に関する支出 | 5年以内 |
| 株式発行費 | 株式募集にかかる費用 | 3年以内 |
| 社債発行費 | 社債発行のための費用 | 償還期間内 |
📘 税法上では、これらに加えて「権利金」「立ち退き料」など5種類が認められています(法人税法施行令第64条)。
💰 繰延資産の償却方法(均等償却と任意償却)
繰延資産は、一定期間で費用化(償却)していく必要があります。主な償却方法は次の2つです。
① 均等償却(定額法)
支出額を効果が及ぶ期間で等分し、毎期同額を費用化します。
最も一般的な方法です。
計算式:
② 任意償却(一時償却)
会社の判断で、償却時期や償却額を柔軟に設定できる方法です。
利益調整に活用されることもありますが、過度な利用は粉飾決算と見なされるリスクもあるため注意が必要です。
🧮 【仕訳例】創立費100万円を繰延資産として計上した場合
| 処理内容 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 支出時 | 創立費 1,000,000円 | 現金 1,000,000円 |
| 1年目償却時(5年均等) | 創立費償却 200,000円 | 創立費 200,000円 |
👉 この場合、5年間で毎期20万円ずつ費用化されます。
⚠️ 繰延資産の会計処理で注意すべきポイント
-
実際には「価値のない資産」なので計上しすぎ注意
過大に計上すると、資産が膨らみ決算の信頼性を損ないます。 -
償却漏れに注意
償却期間を正しく設定し、期末ごとに償却仕訳を忘れずに。 -
税務と会計でルールが異なる
法人税法では「均等償却のみ」が原則です。申告時は税務上の処理に合わせましょう。
💼 実務での活用事例
-
開業初年度の広告宣伝費を繰延資産として計上し、数年に分けて償却することで初年度の赤字を抑制。
-
株式発行費を3年で均等償却し、資金調達コストを平準化。
-
システム開発費を開発費として繰延計上し、プロジェクト終了後に償却開始。
このように、繰延資産をうまく使えば税負担の平準化や利益の安定化に役立ちます。
✅ まとめ:繰延資産は「費用のタイミングを調整する仕組み」
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 意味 | 効果が数年続く支出を一時的に資産計上 |
| 償却方法 | 均等償却または任意償却 |
| 会計処理 | 正確な償却期間の設定が重要 |
| 注意点 | 過大計上・償却漏れ・税務上の差異に注意 |
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