企業間の取引では、資金の受け渡し方法として「為替手形」がよく利用されます。
その中でも「自己宛為替手形(じこあて・かわせてがた)」は、通常の為替手形とは異なる特殊な形態を持っています。
この記事では、自己宛為替手形の仕組みや利用目的、会計処理の方法を、会計初心者にもわかりやすく解説します。
自己宛為替手形とは
自己宛為替手形とは、振出人(手形を発行する者)と名宛人(支払いを行う者)が同一人物である為替手形のことです。
通常の為替手形は、「振出人」「名宛人」「受取人」の三者間で行われる取引ですが、自己宛為替手形では振出人が自分自身を名宛人に指定するため、実質的には二者間で完結します。
形式上は三者取引と同じですが、振出人が「自らに支払いを指図する」という点が特徴です。
自己宛為替手形を使う目的
自己宛為替手形は、一見すると手間のかかる仕組みに見えますが、実務上は次のような目的で利用されます。
1. 経費(取立手数料)の削減
大企業などでは、複数の支店や営業所を通じて取引を行うことがあります。
この場合、振出人(本社など)が名宛人として自社の支店を指定することで、手形の取立手数料や振込コストを削減することができます。
2. 資金管理の効率化
自社内で手形の流れを完結できるため、支払・入金の記録が明確になり、資金の流れを一元的に管理しやすくなります。
3. 内部決済の簡略化
関連会社間や支店間の取引など、実質的には同一企業グループ内で完結する取引において、銀行を介さずに手形処理を行える点もメリットです。
自己宛為替手形の仕組み
自己宛為替手形では、次のような流れで処理が行われます。
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振出人(本社など)が為替手形を作成し、名宛人として自社の支店を指定する。
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指図人(取引相手)はその手形を受け取り、期日に支払いを受ける。
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手形期日に、名宛人(支店)が支払いを実行する。
このように、企業の内部組織を利用して取引を完結させることで、外部銀行を通すコストや手間を抑えることができます。
自己宛為替手形の会計処理
自己宛為替手形の会計処理は、通常の約束手形の処理とほとんど同じです。
ただし、振出人と名宛人が同一であるため、一部の仕訳や手続きに違いがあります。
(1)振出人側の仕訳
振出人が自己宛為替手形を発行した時の仕訳は次の通りです。
借方:買掛金 ×××円
貸方:支払手形 ×××円
これは、通常の支払手形を発行した場合と同じ仕訳になります。買掛金が消滅し、支払手形の負債が計上されます。
(2)指図人(受取人)側の仕訳
自己宛為替手形を受け取った側では、次のように処理します。
借方:受取手形 ×××円
貸方:売掛金 ×××円
この時点で売掛金が回収されたとみなされ、支払期日に手形が決済されます。
(3)遡及義務の仕訳は不要
自己宛為替手形は、振出人と名宛人が同一人物であるため、通常の為替手形のような「遡及義務(他人の不渡りに対する支払い責任)」が発生しません。そのため、遡及義務に関する仕訳は不要です。
自己宛為替手形の利用例
例として、A商社がB製作所から商品を仕入れたケースを考えましょう。
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A商社(本社)がB製作所への支払いに自己宛為替手形を発行し、名宛人を自社の大阪支店とする。
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B製作所はその手形を受け取り、期日に大阪支店から支払いを受ける。
このように、本社と支店の関係を利用して決済を行うことで、A商社は銀行を通す必要がなく、取立手数料を節約できます。
自己宛為替手形のメリット・デメリット
メリット
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銀行取立手数料の削減
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内部決済が容易で資金管理が効率的
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通常の手形処理と同じ仕訳で対応可能
デメリット
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外部企業との取引にはあまり適さない
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取引構造が複雑な場合、誤処理のリスクがある
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実務上の利用は限定的
まとめ
自己宛為替手形とは、振出人と名宛人が同一である特殊な為替手形です。
主に大企業が取立手数料の削減や資金管理の効率化を目的として利用します。
会計処理は通常の約束手形とほぼ同じであり、仕訳も複雑ではありませんが、実務上は利用目的や取引形態に応じた慎重な判断が求められます。
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