手形は昔から企業間の信用取引で使われてきた決済手段ですが、資金繰りが苦しい時には満期日前でも金融機関に持ち込み、早期に現金化できます。この「手形の割引」で発生する費用が手形売却損です。経理実務では仕訳パターンも多く、つまずきやすいポイントでもあります。
この記事では、手形売却損の基本から、実践で使える仕訳例、不渡りが起きた場合の取扱いまで、専門家の視点でわかりやすくまとめていきます。
また、約束手形は2026年度末までに廃止が予定されており、手形の取り扱い自体が過渡期にあります。このタイミングだからこそ、基礎知識を整理しておくと安心です。
手形売却損とは?
手形売却損とは、受取手形を満期日前に金融機関へ「手形割引」に出した際に支払う割引料のことです。
手形を早期に現金化すると、手形金額より少ない金額で入金されます。この差額が利息の役割を果たし、会計上は営業外費用の「手形売却損」として処理します。
なお、手形売却損には消費税はかかりません。
割引料の基本計算式は以下の通りです。
割引料=手形金額 × 割引年利率 ×(割引日数/365)
仕訳と合わせて覚えておくと、実務でのスピードが一気に上がります。
手形売却損の仕訳例
ここからは、実務でよく出会う仕訳パターンをまとめて紹介します。
仕訳例1
受取手形100万円を銀行で割引し、割引料5万円が差し引かれて普通預金に入金された場合。
借方|貸方
普通預金 950,000円|受取手形 1,000,000円
手形売却損 50,000円|
仕訳例2
当座預金で入金されるケース。
借方|貸方
当座預金 900,000円|受取手形 1,000,000円
手形売却損 100,000円|
仕訳例3
貸倒引当金が設定されている受取手形の割引。
借方|貸方
当座預金 950,000円|受取手形 1,000,000円
手形売却損 50,000円|
貸倒引当金 10,000円|貸倒引当金繰入額 10,000円
貸倒引当金は金銭債権全体のリスクを見積もるための評価勘定で、割引の有無に関係なく期末残高に応じて設定されます。
仕訳例4
年利3%、割引日数90日で割引料を計算するケース。
割引料の計算:
500,000 × 0.03 × (90/365) = 3,698円
借方|貸方
当座預金 496,302円|受取手形 500,000円
割引料 3,698円|
仕訳例5
保証債務を対照勘定法で計上するケース。
借方|貸方
当座預金 495,000円|受取手形 500,000円
手形売却損 5,000円|
保証債務費用 5,000円|保証債務 5,000円
受取手形を割引すると、満期までの間、企業は「保証債務」を負います。不渡り時には支払義務が返ってくるため、保証債務の時価評価が必要になります。
手形が不渡になった場合はどうなる?
割引に出した手形の振出人が支払期日に決済できなかった場合、その請求は裏書した側、つまり自社に戻ってきます。
不渡りの種類
0号不渡り:記載不備など形式的な問題
1号不渡り:資金不足など一般的な不渡り
2号不渡り:詐欺や故意による重大な不渡り
このうち実務で最も多いのは1号不渡りです。
手形割引は「権利を譲渡する代わりに即時現金化する」仕組みですが、裏書譲渡した以上、発行者が支払不能なら、その責任は自社にも返ってきます。
まとめ
手形売却損は「早期現金化のコスト」であり、資金繰りの現場ではよく登場する論点です。割引料の計算、保証債務、不渡り時の扱いまで、実務では細かい判断が必要になります。
とはいえ、仕訳パターンに何度か触れていくうちに、自然と理解が深まっていきます。経理担当者として、まずは基本の流れを押さえておけば十分です。
手形制度は2026年度末に大きく変わるため、今のうちに知識の棚卸しをしておくと後々ラクになりますよ。
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