労務費は、製造業や建設業など「ものづくり」に関わる企業にとって極めて重要なコストです。
しかし「人件費と何が違うの?」「直接労務費と間接労務費ってどう区別するの?」と悩む経理担当者は少なくありません。
この記事では、日本の会計制度・原価計算の実務経験にもとづき、労務費の意味、人件費との違い、内訳、計算方法、労務費率 をわかりやすく解説します。
これから原価管理を強化したい企業や、経理初心者の方にも役立つ内容です。
労務費とは?(基礎の理解)
労務費とは 製品の製造に直接・間接的に必要な“人の労働に対するコスト” を指します。
ポイントは次の2つです。
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製造部門の従業員に対して発生する給与・手当が対象
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製造原価として扱われ、販売費及び一般管理費とは区別される
同じ給料でも、営業・管理部門は「人件費」、
製造部門は「労務費」 と扱いが異なる点に注意しましょう。
直接労務費とは?
直接労務費とは、特定の製品の製造に直接結びつく作業に対して支払われる賃金 のことです。
例:
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組立作業員の作業時間に対する賃金
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製品を加工する職人の賃金
製品1個あたりの原価を計算する際、一番わかりやすく数量化できる労務コストです。
間接労務費とは?
間接労務費とは、製造に関わるが、特定製品への直接対応ができない労働コストです。
主な例は次のとおり。
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間接作業賃金:修繕・準備作業など直接生産に当たらない作業
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間接工賃金:工場の清掃員や運搬係などの賃金
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手待賃金:停電・部材不足等で作業ができない時間の賃金
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休業賃金:会社都合の休業に伴う支給
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給料:工場長・ライン管理者などの給与
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賞与・各種手当:通勤手当、住宅手当など
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退職給付費用:製造部門の従業員に対応する部分
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法定福利費:社会保険料の会社負担分
直接労務費以外の製造部門のコストは、基本的に間接労務費と考えると整理しやすいです。
労務費と人件費の違い
初心者が混乱しやすいポイントですが、実務でははっきり区別されています。
| 項目 | 労務費 | 人件費 |
|---|---|---|
| 対象 | 製造部門の従業員 | 営業・管理部門の従業員 |
| 会計上の分類 | 製造原価 | 販売費及び一般管理費 |
| 目的 | 製品製造に必要な労働力の評価 | 事業運営全体に必要な人件コスト |
製造原価の算定では「労務費」を細かく管理するため、
労務費と人件費を正しく分けることが重要です。
労務費の内訳
労務費を構成する主な項目は次の通りです。
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賃金(残業代や休日手当含む)
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雑給(パート・アルバイトの賃金)
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賞与・各種手当
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退職給付費用
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法定福利費(健康保険・厚生年金など)
いずれも「製造部門」に紐づくコストである点がポイントです。
労務費の計算方法
労務費は 直接労務費と間接労務費 に分けて計算します。
直接労務費の計算方法
製品ごとに作業時間を記録し、賃率(1時間あたりの賃金)をかけて算出します。
賃率(円/時間)=直接工の賃金 ÷ 製品製造の直接作業時間
直接労務費=賃率 × 製品に要した作業時間
例:
賃金24万円、作業時間160時間の場合
賃率=24万円 ÷ 160h=1,500円/h
A製品に5時間 → 7,500円が直接労務費
間接労務費の計算方法
間接労務費は、次のいずれかで求められます。
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間接労務費に該当する項目を合計する
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間接労務費=労務費全体 − 直接労務費
直接労務費のように製品ごとに割り振る計算は通常行いません。
労務費率とは?
労務費率とは、請負金額(工事金額)に対して労務費が占める割合 のことです。
建設業などでは、現場ごとの労災保険料を算定する際に利用する重要な指標です。
例:
請負金額1,000万、労務費300万
→ 労務費率=30%
労務費率は業界ごとに基準があり、法律で定められた数値が使われる点も特徴です。
まとめ|労務費を正しく理解すると、原価管理が劇的に変わる
労務費は、製造企業の原価計算において欠かせないコストです。
製品の利益を正しく計算し、適切な価格設定やコスト管理を行うためには、
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労務費と人件費の違いを理解する
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直接労務費と間接労務費を正確に区別する
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計算方法を正しく把握する
-
労務費率の役割を理解する
といったポイントが重要です。
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