前受収益は、経理初心者がつまずきやすい勘定科目のひとつです。
名前が似ている「前受金」や「仮受金」と混同されやすく、正しく仕訳するためには概念の理解が欠かせません。
この記事では、前受収益の意味、仕訳方法、似ている科目との違いまで専門家としてわかりやすく解説します。
前受収益とは?基本の考え方を理解しよう
前受収益とは、まだ提供していないサービスや役務に対して、あらかじめ受け取った料金を計上する負債科目です。
企業が継続的なサービス(保守契約、サブスクリプション、賃貸料など)を提供する場合、対価は受け取っていても 未提供分は当期の収益に含めてはいけません。
そのため、決算時に未提供分を「前受収益」として処理し、翌期以降に収益へ振り替えます。
英語では Unearned Revenue(未実現収益) と呼ばれます。
貸借対照表では負債に分類される理由
前受収益は「まだ提供義務が残っている金額」であり、企業にとっては負債です。
受け取った時点では収益が確定しておらず、提供義務を果たすまでは負債として扱われます。
また、企業会計原則でも次のように定義されています:
提供していない役務に対して受け取った対価は、当期の収益から除外し、負債に計上する。
この考え方にもとづき、決算時には未経過分を前受収益として調整します。
ワン・イヤー・ルールとの関係
前受収益を流動負債・固定負債のどちらに計上するかは、営業活動に関係するかどうかで判断します。
-
営業活動に関連 → 正常営業循環基準が優先され、たとえ1年以上の期間でも流動負債
-
営業活動に直接関連しない → 1年を超える部分は長期前受収益として固定負債
このように、前受収益はワン・イヤー・ルールと正常営業循環基準の両方で判断される科目です。
長期前受収益とは?
長期前受収益は、決算日から1年を超えて収益化される部分を区分したものです。
たとえば、3年間の保守契約料を一括で受け取った場合、翌期に振り替える分だけが前受収益、それ以外は長期前受収益になります。
毎期、提供済みの期間分を前受収益に振り替えながら、適切に負債を区分します。
前受金・仮受金との違い
◎ 前受収益と前受金の違い
| 項目 | 前受収益 | 前受金 |
|---|---|---|
| 主な対象 | 期間性のあるサービス | 商品や単発のサービス |
| 時の経過による収益化 | あり | なし |
| 収益化のタイミング | 時間の経過に応じる | 商品引渡し・役務提供時 |
前受金は「商品代金などの前払い」であり、期間配分の考え方はありません。
一方、前受収益は「期間に応じて収益化するサービス」が対象です。
◎ 前受収益と仮受金の違い
仮受金は 内容不明の入金を一時的に処理する科目 です。
例:
売掛金1,000円のところに得意先が誤って1,200円振り込んだ場合
→ 過剰入金200円を仮受金として処理する
このように仮受金は「内容未確定の一時処理」であり、サービスの提供状況とは関係ありません。
前受収益の仕訳を具体例で解説
▼ 例:12月1日に1年分の保守サービス料 13,200円(税込)を受け取った
(1か月:1,100円)
① 入金時の仕訳(12月1日)
本来は未提供分しか前受収益にならないが、実務では入金時に全額を前受収益として処理するケースも多い。
② 決算時の仕訳(3月末:8か月分が未経過)
未提供期間:4月〜11月 → 8か月
13,200円 × 8/12 = 8,800円
(決算時は「前受収益を増やす」のではなく、「当期の収益から未経過部分を除外する」仕訳を行う)
③ 翌期の振替(4月〜11月の提供時)
毎月末またはまとめて収益化します。
例:1か月分(1,100円)
これで翌期に正しい期間損益が反映されます。
前受収益のポイントまとめ
-
前受収益は 「未提供サービスの前受金」 で、負債に計上する
-
期間に応じて収益を配分する「経過勘定」
-
前受金・仮受金とは対象と性質が異なる
-
正しい決算処理のためには、「期間の確認」と「収益の振替」が重要
-
サブスク型サービスや保守契約などで使用頻度が高い科目
前受収益を正しく理解することで、決算書の正確性が高まり、経理実務の質も向上します。
こちらもご覧ください

