前払費用とは何か、仕訳はどうすればよいのか、長期前払費用との違いは?
経理をしていると必ず出てくるテーマですが、意外と細かいルールが多く、迷いやすい項目です。
この記事では、日本の会計基準に基づいて、専門家の立場から正しく・わかりやすく解説します。
前払費用とは?
前払費用とは、まだ提供されていないサービスに対して、先に支払った費用のことです。
たとえば以下のようなケースがあります。
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1年分の火災保険を一括で前払いした
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翌月分の家賃を当月に支払った
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ソフトウェアやクラウドサービスを年間契約で先払いした
これらは、支払った時点ではまだサービスを受け終わっていないため、貸借対照表の「資産」に計上される点が特徴です。
会計上はサービスの提供期間に応じて費用化されるため、前払費用に計上し、決算で適切に振り替える必要があります。
前払費用と前払金の違い
前払費用と前払金は名前が似ていますが、厳密には別物です。
● 前払費用
継続的なサービス契約に基づき、サービス未提供分を資産計上する。
● 前払金
商品や資産の購入代金を前払いした場合など、サービス提供契約以外の支払いに使用する。
✔ 具体例で比較
| 支払い内容 | 勘定科目 |
|---|---|
| 火災保険・家賃・サブスク料金の前払い | 前払費用 |
| 商品代金・雑誌購読料(=継続サービスに該当しない) | 前払金 |
会計処理上、この違いを誤ると貸借対照表の分類が誤ってしまうので注意が必要です。
長期前払費用とは?
前払費用のうち、決算日から1年を超えてサービス提供を受ける部分は、固定資産の部に「長期前払費用」として表示します。
これは「ワンイヤールール(1年基準)」に基づくものです。
● 例:3年分の火災保険料を一括払いした場合
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決算日から1年以内 → 短期前払費用(流動資産)
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1年を超える分 → 長期前払費用(固定資産)
また、法人税法上の繰延資産を「長期前払費用」で処理することも実務ではよくあります。
短期前払費用とは?
短期前払費用は、決算日から1年以内にサービス提供を受ける前払いを流動資産に計上するものです。
ただし、注意点が2つあります。
① 毎月「等質・等量」の役務提供であること
弁護士顧問料、来期に放映されるCM料など、均一のサービス提供とはいえないものは対象外です。
② 支払年度にサービス提供が開始していること
例)6月サービス開始の契約を3月に一括払した場合
→ 3月決算では前払費用にできない
前払費用の会計処理のタイミング
実務では以下の方法が一般的です。
● 実務で最も多い流れ
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支払時:全額を費用計上
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決算時:翌期以降の分を前払費用に振替
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翌期首:前払費用から費用へ再振替
決算作業の負担を減らすため、多くの企業で採用されています。
ただし、処理方法は毎年継続することが前提です。
短期前払費用の税務上の特例(節税効果あり)
法人税基本通達 2-2-14 により、
支払日から1年以内にサービス提供を受ける場合、継続適用を条件に、支払時点で損金算入が認められる
という特例があります。
これは法人税・所得税どちらも同様で、節税に繋がるポイントです。
また、消費税の課税期間でも「支払日の属する期間」の仕入税額控除として取り扱われる点に注意が必要です。
前払費用の仕訳例
● 例:1年分の火災保険料 120,000円を前払いした
【支払時】
【決算時:3か月分(30,000円)だけ当期費用へ振替】
【翌期首:残りの前払費用を振替】
まとめ:前払費用とは、正しく理解すれば決算の強い味方になる
前払費用は、経理にとって日常的な処理である一方、
「流動と固定の区分」「前払金との違い」「短期前払費用の特例」など、理解しておきたい論点が多くあります。
ポイントをおさらいすると:
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前払費用とは、未提供サービスへの支払い
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前払金とは用途が異なるので区別する必要がある
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長期前払費用は1年基準(ワンイヤールール)で判断
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短期前払費用は税務特例で節税が可能
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会計処理方法は継続性が重要
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