「工事進行基準」という言葉を聞くと、建設業やソフトウェア開発の会計処理を思い浮かべる方も多いでしょう。
長期にわたるプロジェクトでは、売上や費用をいつ計上するかが大きなポイントになります。
この記事では、工事進行基準の基本的な考え方や、工事完成基準との違い、進捗度の計算方法などをわかりやすく解説します。
工事進行基準とは
工事進行基準(こうじしんこうきじゅん)とは、長期間にわたる工事や開発プロジェクトにおいて、工事の進捗度に応じて売上を分割して計上する会計基準です。
つまり、「工事がどの程度進んだか」に基づき、毎期ごとに売上・費用を認識する方法です。
この基準はもともと建設業の長期請負工事で用いられていましたが、
2009年4月以降、日本ではソフトウェアの受託開発などの分野にも適用が拡大されています。
工事進行基準と工事完成基準の違い
長期契約の会計処理には、大きく分けて2つの方法があります。
| 会計処理方法 | 売上計上のタイミング | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 工事進行基準 | 工事の進捗に応じて毎期計上 | 経営状況をリアルタイムに把握できる |
| 工事完成基準 | 工事が完了した時点で一括計上 | 計算は簡単だが、期間損益が偏る |
工事完成基準は、工事が終わった時点でまとめて売上・費用を認識する方法です。
一方、工事進行基準では、期末時点の進捗度に応じて売上を分割して計上します。
この違いにより、工事進行基準のほうが「タイムリーで正確な業績評価」が可能になります。
工事進行基準のメリット
工事進行基準を採用することで、企業は次のようなメリットを得られます。
-
不採算案件の早期発見
工事の途中段階で損益を把握できるため、赤字案件のリスクを早めに認識できます。 -
経営の透明性向上
進捗に応じた会計処理により、財務諸表の信頼性が高まります。 -
資金繰りの改善
実際の進行状況に合わせて売上を計上するため、キャッシュフロー計画が立てやすくなります
進捗度の算出方法 ― 原価比例法とは
工事進行基準で最も一般的な進捗度の算出方法が、原価比例法(げんかひれいほう)です。
原価比例法では、以下の式で進捗度を求めます。
進捗度=(当期までの累計原価÷見積総原価)×100%進捗度 = (当期までの累計原価 ÷ 見積総原価) × 100%
つまり、全体で見込まれる総コストのうち、すでに発生した費用の割合で進捗度を判断します。
たとえば、見積総原価が1,000万円の工事で、期末までに500万円の原価が発生していれば、進捗度は50%となります。
この場合、契約金額が2,000万円なら、当期の売上高は1,000万円(=2,000万円 × 50%)として計上します。
原価比例法を適用する際の注意点
正確な進捗度を算出するには、以下の点に注意が必要です。
-
開発や保守が一体となった取引を適切に分離すること
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見積総原価を正確に算出すること
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契約変更や仕様変更があった場合は随時見直すこと
見積の精度が低いと、進捗度や収益の認識に誤差が生じ、結果として誤った財務報告につながる可能性があります。
まとめ
工事進行基準は、長期にわたるプロジェクトにおいて、経営の健全性と透明性を確保するための重要な会計基準です。
工事完成基準よりも実務負担は増えますが、より正確な損益計算と早期の経営判断が可能になります。
特に建設業やソフトウェア開発など、長期契約が多い企業では、工事進行基準を正しく理解し、適切に適用することが求められます。
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