在庫評価の方法にはいくつかの種類がありますが、その中でもかつて一部の企業で採用されていたのが「後入先出法(こうにゅうせんしゅつほう/LIFO:Last In First Out)」です。
この記事では、後入先出法の基本的な考え方から、廃止された理由・メリット・デメリット・計算例まで、初心者にもわかりやすく解説します。
🔍 後入先出法とは?
後入先出法(LIFO:Last In First Out)とは、棚卸資産(在庫)の評価方法の一つで、
「後から仕入れたものを先に出庫する」という考え方に基づいています。
たとえば、ある商品を1月に10個、2月に10個仕入れたとします。
後入先出法では、販売(出庫)する際に「2月に仕入れた分」から先に売れたものとみなします。
つまり、新しく仕入れた商品が先に出ていき、古い在庫が倉庫に残る形になります。
この考え方は実際の商品の流れとは異なる場合が多いものの、物価上昇時に損益を安定させる効果があるため、一部業種では好まれていました。
🧾 先入先出法との違い
棚卸資産の評価方法には、もう一つ代表的な「先入先出法(FIFO:First In First Out)」があります。
これは名前の通り、「先に仕入れたものから先に出庫する」という方法です。
評価方法 | 出庫される順番 | 特徴 |
---|---|---|
先入先出法 | 古い仕入分から出庫 | 実際の商品の流れに近い |
後入先出法 | 新しい仕入分から出庫 | 物価上昇時に損益を安定化 |
生鮮食品を扱うスーパーなどでは、古い在庫から売る「先入先出法」が現実的です。
一方、原油・金属・繊維など価格変動が激しい業種では、後入先出法の方が損益を安定させやすい傾向がありました。
🚫 後入先出法はなぜ廃止されたのか?
日本では、平成22年(2010年)4月1日以降開始する事業年度から後入先出法の適用が廃止されています。
これは「棚卸資産の評価に関する会計基準」(企業会計基準第9号)の改正によるものです。
廃止の主な理由:
-
実態に即していない
実際の商取引では「古いものから先に売る(先入先出)」のが一般的。
後入先出法は現実の在庫管理にそぐわないと判断されました。 -
資産の時価を正確に反映できない
後入先出法では古い仕入価格が在庫に残るため、市場価格と乖離した評価額となります。
結果として、企業の財政状態を正しく表せないという問題が生じました。 -
国際会計基準(IFRS)との整合性
IFRSでは後入先出法の使用が認められていません。
国際基準との統一を図るため、日本でも廃止されたのです。
💡 後入先出法のメリット・デメリット
✅ メリット:物価上昇時に損益が安定
物価が上昇している時、後入先出法では最新の仕入価格が売上原価に反映されるため、
利益が実態に近く、課税所得が抑えられるという特徴があります。
例:
-
1月仕入:@500 ×10個
-
2月仕入:@1,000 ×10個
-
3月販売:20個出庫
👉 後入先出法では「2月分→1月分」の順に出庫するため、売上原価は高くなり、
利益が過大に計上されにくくなります。
これは、物価上昇期に課税負担を軽減する効果がありました。
❌ デメリット:在庫評価額が実際とずれる
一方、棚卸資産(在庫)として残るのは古い仕入分となるため、
市場価格よりも低い評価額で資産計上されてしまいます。
このため、
-
財務諸表が実態よりも低く見える
-
株主・金融機関などの利害関係者が誤った判断をする可能性がある
といったリスクがあり、これが廃止の大きな理由になりました。
🧮 後入先出法の計算例
具体例で確認してみましょう。
日付 | 内容 | 数量 | 単価 | 金額 |
---|---|---|---|---|
6/1 | 仕入 | 10個 | @100 | 1,000円 |
6/2 | 仕入 | 20個 | @110 | 2,200円 |
6/4 | 売上 | 20個 | ー | ー |
👉 出庫順は「6/2分(後に仕入れた分)」→「6/1分(前に仕入れた分)」となります。
したがって、残る在庫は次の通り。
-
6/2分の残り10個 × @110 = 1,100円
-
6/1分の残り10個 × @100 = 1,000円
→ 棚卸残高:合計2,100円
📘 まとめ:後入先出法の理解を深めよう
項目 | 内容 |
---|---|
方法の考え方 | 後から仕入れたものを先に出庫 |
主なメリット | 物価上昇時に利益を安定化 |
主なデメリット | 在庫評価が時価と乖離 |
廃止理由 | 実務上の非現実性・国際基準との整合性 |
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