企業グループの財務状況を正しく把握するためには、どの会社を連結の対象に含めるべきか正確に判断する必要があります。
その判断基準として導入されたのが「支配力基準(実質支配力基準)」です。
この記事では、支配力基準の考え方や背景、判断基準をわかりやすく解説します。
支配力基準とは?従来の「持分基準」と何が違うのか
支配力基準とは、企業が他の会社を“実質的に支配しているかどうか”を基準に、連結範囲を決定する考え方です。
以前は「持分基準」に基づき、議決権の所有割合(一般的には50%超)だけで連結の範囲が判断されていました。
しかし、この方法には大きな問題がありました。
● 持分基準の問題点
議決権の過半数を持っていなくても、実際には以下のようなケースで企業を支配していることがあります。
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経営者の人事権を握っている
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経営方針を左右できる契約を結んでいる
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多額の融資により財務面で支配している
にもかかわらず、議決権の割合だけでは連結対象に含まれず、企業の財務実態が正しく反映されないという問題がありました。
この課題を解決するために導入されたのが 「支配力基準(実質支配力基準)」 です。
実質的な支配とは?該当する3つのケース
支配力基準では、「議決権の割合」だけでなく、実質的に意思決定を支配しているかが判断材料になります。
具体的には、以下の3パターンのいずれかに該当すると「支配している」とみなされます。
① 議決権所有割合が 50%超 の場合(明確な支配)
これは最も分かりやすいケースで、従来の基準と同じです。
過半数の議決権を持っているため、意思決定をコントロールできると判断されます。
② 議決権所有割合 40~50% でも“実質支配”が認められる場合
議決権が50%に満たなくても、以下のいずれかに該当すれば「支配」と判断されます。
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イ:自己所有等議決権の割合が事実上50%超である
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ロ:取締役会等の過半数を自社グループの役員が占めている
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ハ:重要な財務・事業方針を決める契約が存在する
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ニ:資金調達額のうち50%超を融資している
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ホ:その他、事業方針を支配していると推測される事実がある
▼ 実務でよくある例
例えば、議決権45%を保有している会社 A が、
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子会社の取締役の多くを派遣している
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資金繰りを実質的に管理している
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重要な事業方針を A が決定している
この場合、議決権の割合が50%未満でも「支配力あり」と判断され連結対象になります。
③ 自己所有等議決権の割合が50%を超えている場合
こちらは①と同様で、過半数を実質的に保有しているときは通常通り連結対象です。
支配力基準が採用された背景|「連結外し」問題の解消
支配力基準が導入された背景には、過去に問題となった**「連結外し(連結はずし)」**の存在があります。
● 連結外しとは?
子会社が経営悪化した場合、企業グループは次のような対応を取るケースがありました。
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他社に少し株式を持ってもらう
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議決権比率を意図的に50%未満にする
これにより持分基準では子会社を連結対象から外せるため、
連結財務諸表に赤字子会社の状況を反映させないことが可能になっていました。
つまり、見かけ上の財務状態をよく見せる“不適切な会計操作”につながる危険があったわけです。
● 支配力基準の導入で実態が反映されるように
支配力基準では、議決権の割合に関わらず「実質的な支配」を重視するため、
このような不自然な連結外しは基本的にできなくなりました。
結果として、企業の財務情報がより正確に開示され、投資家保護にもつながる大きな改革となりました。
まとめ|支配力基準は“実質”を見て連結対象を判断する基準
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支配力基準とは、実質的な支配がある企業を連結範囲に含める基準
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従来の「持分基準」では判断できなかった支配関係も含めて判定できる
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議決権 40~50%でも、経営をコントロールしていれば連結対象
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背景には「連結外し」を防止し財務情報の信頼性を高める目的がある
支配力基準は、企業グループの正しい財務実態を理解するうえで欠かせない概念です。
会計や連結決算を学ぶ際には、まず押さえておきたい重要ポイントといえます。
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