繰延資産とは

繰延資産とは?仕組み・償却方法・仕訳例を初心者向けに解説

企業会計や税務でよく登場する「繰延資産(くりのべしさん)」。聞き慣れない方も多いかもしれませんが、会社の支出を適切に管理するうえで重要な概念です。

本記事では、繰延資産の基本から償却方法、仕訳例、活用事例まで、初心者にもわかりやすく解説します。

1. 繰延資産とは

繰延資産とは、すでに支払った費用のうち、複数年度にわたって効果が及ぶ支出を指します。通常の費用は発生した年度にすぐ損益計算書で費用計上されますが、繰延資産は**資産として計上し、数年かけて費用化(償却)**します。

ポイント

  • 読み方は「くりのべしさん」

  • 貸借対照表(B/S)の資産の部に計上される

  • 長期的な効果が期待できる支出が対象

  • 実態としては「費用の先延ばし」

 

2. 繰延資産と他の資産との違い

貸借対照表には「流動資産」「固定資産」「繰延資産」がありますが、それぞれ性質が異なります。

資産の種類 特徴 具体例
流動資産 1年以内に現金化可能 現金・預金、売掛金、棚卸資産
固定資産 長期保有・使用が前提 土地、建物、特許権、投資有価証券
繰延資産 実物の財産価値はないが、支出効果を年度をまたいで費用化 創立費、開業費、株式発行費、社債発行費、開発費

ポイント:
流動・固定資産は「財産価値を有する資産」、繰延資産は「支出の効果を後年度に振り分ける費用」という違いがあります。

3. 繰延資産の分類

3-1. 会計上の繰延資産

企業会計上、計上が認められる繰延資産は以下の5種類です。

  1. 創立費:会社設立のための費用(定款作成費、設立総会費用など)

  2. 開業費:開業準備費用(広告費、賃借料など)

  3. 株式発行費:株式募集にかかる費用(印刷費、手数料など)

  4. 社債発行費:社債発行のための費用(広告費、手数料、登録免許税など)

  5. 開発費:新技術・新経営組織の導入や市場開拓のための支出

3-2. 税法上の繰延資産

税法上は、上記の会計上の5種類に加え、公共施設や権利金など、計10種類程度が対象となります。

4. 繰延資産の償却方法と期間

償却方法は主に2種類です。

4-1. 任意償却(一時償却)

  • 任意のタイミングで全額または一部を費用化

  • 利益状況に応じて柔軟に調整可能

  • 取得年度に全額費用計上することも可能

4-2. 均等償却

  • 一定期間に均等に費用計上

  • 計算式:

    年間償却額 = (繰延資産の金額 ÷ 効果が及ぶ期間の月数) × 当該年度の月数

会計上の償却期間例

資産の種類 償却期間
創立費 5年
開業費 5年
開発費 5年
株式交付費 3年
社債発行費 社債償還期間

税法上

  • 均等償却が原則

  • 少額(20万円未満)の場合は、当期全額費用計上も可能

 

5. 繰延資産の仕訳例

例:創立費 1,000,000円を5年間均等償却する場合

  • 年間償却額 = (1,000,000 ÷ 60ヶ月) × 12ヶ月 = 200,000円

仕訳

借方 貸方
創立費償却 200,000 創立費 200,000

一括償却する場合は、借方に創立費、貸方に現金 1,000,000円と記帳します。

6. 繰延資産の活用事例

6-1. 赤字抑制・費用の平準化

  • スタートアップの設立直後、創立費や開業費を繰延資産として計上

  • 任意償却を活用して、利益が少ない期間は償却せず費用を抑える

6-2. 税負担の軽減

  • 売上増加時に任意償却で一括費用化

  • 合法的に課税所得を減らし、税負担を軽減

注意: 粉飾決算や脱税とならないよう、税理士など専門家の確認が必要です。

7. 繰延資産のチェックポイント

  • 貸借対照表の他資産や損益計算書と比較して過大計上がないか確認

  • 償却中の金額が正しく計算されているかチェック

  • 会計上・税務上のルールを遵守

 

8. まとめ

繰延資産は、長期にわたる支出効果を費用化する手段であり、企業の財務管理や税務戦略に役立ちます。しかし、計上や償却の方法はルールが複雑です。適切に理解し、仕訳や償却計算を正確に行うことが重要です。

  • 繰延資産を理解することで財務戦略や税務計画の最適化が可能

  • 少額資産や任意償却の活用で費用調整が可能

  • 専門家の確認を受けることで粉飾決算リスクを回避

詳しくは国税庁「繰延資産」もご参照ください。

さらに参照してください:

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