企業の経理・財務を取り扱う中で、特に「掛け取引(ツケ払い)」の部分は少しとっつきにくいですが、実務では必ず出てくる重要なテーマです。
今回は、初心者の方にもわかりやすく、私(会計・税務実務経験5年以上)が「(かいかけさいむ)」を中心に、関連用語である「」「」「」なども交えながら、具体的な仕訳も含めて整理していきます。
経理・財務初心者の方、あるいは個人事業主でこれから帳簿をきちんと整備したい方にも安心して読めるようにしています。
目次
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買掛債務とは何か
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買掛債務の具体例:買掛金・支払手形・未払金との違い
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買掛債務の仕訳方法(例付き)
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買掛債務回転期間とは?数字で見る資金繰りの指標
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買掛債務と売掛債権の関係性・バランスの重要性
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経理実務で押さえておきたいワンポイント・チェック
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まとめ(初心者向けまとめと今後のステップ)
 
1. 買掛債務とは何か
「買掛債務」とは、企業が 商品やサービスの提供を受けたにもかかわらず、まだ代金を支払っていない義務(=支払義務) を指します。つまり、取引先から仕入れ・購入をして、代金を即時に支払わずあとで支払う“掛け取引”をした際に発生する「借りた資金(=支払義務)」と考えていいです。
会計上、これは「負債」の部に分類され、特に貸借対照表の流動負債として表示されることが一般的です。
ポイントをかみ砕いて言うと:
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商品・サービスを先にもらう → まだお金払ってない → 支払義務が残った状態
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この支払義務が「買掛債務」
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つまり、取引先から“信用”を使っている状態とも言えます(掛け=信用取引)
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会計帳簿上は、「買掛金」「支払手形」などの勘定科目で処理するのが典型です。
 
2. 買掛債務の具体例:買掛金・支払手形・未払金との違い
実務において「買掛債務」と言ったとき、厳密には「買掛金」「支払手形」などが代表的な勘定科目です。
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買掛金:営業上の通常の仕入取引(商品・材料・部品など)で、掛け(後払い)している代金。
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支払手形:一定の期日が記載された約束手形・為替手形を発行して支払う形態。これも掛け取引の一種で、支払義務=買掛債務です。
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未払金:これは少し性格が異なり、光熱費・支払手数料・固定資産取得代金など、営業上の“通常の継続的仕入取引”以外で発生した未払い債務です。したがって、「買掛債務」の枠には入らないとされることが多いです。
 
実務で混同しやすいポイント
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「通常の反復的仕入取引」かどうか → 通常の継続的仕入であれば「買掛金」など。「一時的・偶発的」なものなら「未払金」扱いになることが多い。
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支払い手段が手形かどうか → 手形を振り出したら「支払手形」勘定を使うケース。
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決済までの期間・信用取引かどうか → 掛けなら「買掛債務」。即現金なら買掛債務は発生しません。
 
3. 買掛債務の仕訳方法(例付き)
初心者からすると「仕訳」がいまいちイメージ付きにくいですが、実務ではとても基本です。具体例を使って説明します(税抜処理で考えます):
例1:仕入先から材料を110,000円(税込)で仕入れ、50,000円を支払手形振出し、残りを掛けとした場合
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借方: 材料仕入 100,000円
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借方: 仮払消費税 10,000円
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貸方: 支払手形 50,000円
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貸方: 買掛金 60,000円
このように、支払手形と買掛金で分けて処理します。 
例2:まず買掛金として計上し、後日支払手形を振り出す流れ
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【仕入発生時】
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借方: 材料仕入 100,000円
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借方: 仮払消費税 10,000円
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貸方: 買掛金 110,000円
 
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【支払手形振出し時】
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借方: 買掛金 110,000円
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貸方: 支払手形 110,000円
 
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【支払手形期日決済時】
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借方: 支払手形 110,000円
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貸方: 現預金 110,000円
この流れを押さえておくと、「支払義務 → 手形振出 → 決済」という変化が理解できます。 
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勘定科目・ポイント
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「買掛金」:通常の仕入取引から生じた未払い代金。
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「支払手形」:手形による支払い義務。
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「未払金」:営業活動以外の取引からの未払い。また、1年以上先の支払い義務は固定負債計上されるケースもあります。
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支払期日や手形の有無で処理が変わるということを覚えておくと良いです。
 
4. 買掛債務回転期間とは?数字で見る資金繰りの指標
経理・財務管理の現場では、ただ「買掛債務がいくらあるか」だけでなく、「どれくらいのスピードで支払っているか」=資金繰り・キャッシュフローの観点からも見る指標が重要です。ここで出てくるのが「」です。
定義
買掛債務回転期間とは、「仕入れてから代金を決済するまでの平均期間」を示す指標。つまり、どれくらい“仕入先からお金の猶予(信用)を受けているか”を表しています。
計算式
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月数で表すなら:
買掛債務回転期間(ヶ月)=買掛債務仕入高×12\text{買掛債務回転期間(ヶ月)} = \frac{\text{買掛債務}}{\text{仕入高}} \times 12
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日数で表すなら:
買掛債務回転期間(日)=買掛債務仕入高×365\text{買掛債務回転期間(日)} = \frac{\text{買掛債務}}{\text{仕入高}} \times 365
 
実務上の目安
例えば、過去の資料によると2018年度の日本企業の平均は「約1.37ヶ月(約40日)」という数字があります。
この意味するところは、平均的に仕入れてからおよそ40日で買掛債務を支払っているということです。
なぜ重要か?
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借りている期間(=支払を遅らせる期間)が長ければ、手元資金を他の用途に使えるチャンスになるため、資金繰りにはプラスになることがあります。
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一方で、回転期間が長すぎると「債務残高が大きい=負債が増えている」ことにもなり、財務バランス上リスクになる可能性があります。
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自社の支払スピード・仕入サイト・取引先との条件などを見直す際の指標として使えます。
 
5. 買掛債務と売掛債権の関係性・バランスの重要性
経営・財務観点から言えば、売上側の「掛け取引で代金を後で回収する」→「売掛債権」があるのと同様に、仕入側の「仕入れて代金を後で支払う」→「買掛債務」があります。両者は裏表の関係とも言え、バランスを取ることが健全経営の鍵です。
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売掛債権:商品・サービスを提供し、代金を後で受け取る権利。会計上は資産です。
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買掛債務:仕入れて代金を後で支払う義務。会計上は負債です。
 
バランスが崩れた時のリスク例:
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買掛債務 >> 売掛債権 → 支払義務が先行してしまい、現預金が枯渇しやすくなる。
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買掛債務 << 売掛債権 → 売上代金回収が追いついておらず、資金繰りリスクが高くなる(売掛金の回収が遅れているかも)。
 
このため、経理・財務担当者は自社の「買掛債務/売掛債権」の比率、回転期間、支払・回収条件を定期的にモニタリングすることが推奨されます。
6. 経理実務で押さえておきたいワンポイント・チェック
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掛け取引(掛仕入・掛売上)か、即現金取引かを常に確認する。
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買掛債務を勘定科目「買掛金」「支払手形」で適切に処理しているか。
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「未払金」と「買掛金」の違い(継続的な仕入取引かどうか)を見誤らない。
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支払期日・手形の有無・支払い条件を契約書・請求書で明確にしておく。
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買掛債務回転期間・売掛債権回転期間を定期的に算定・比較して資金繰り状況を把握する。
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買掛債務が長引いたり、回転期間が異常に長くなっていないかを警戒。信用取引条件の見直し等を検討。
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決算時には、流動負債として正しく計上されているかをチェック。期末支払い先・振出手形の数・未払い残高などを漏れなく把握。
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中小企業・個人事業主の方は、経理ソフト・クラウド会計を活用して「買掛金一覧」「支払手形一覧」をきちんと管理することがおすすめです。
 
7. まとめ(初心者向け)
今回ご紹介した「買掛債務」は、企業経理・財務において非常に基本的かつ重要な概念です。
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商品・サービスを掛けで仕入れた → 支払義務が残る → それが「買掛債務」。
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主な勘定科目は「買掛金」「支払手形」。
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「未払金」とは適用範囲が少し異なるので、混同しないように。
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仕訳の流れを具体的に押さえておくと、帳簿入力・決算作業で迷いません。
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資金繰りを見える化するための指標「買掛債務回転期間」も覚えておきましょう。
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最後に、支払いと回収(=買掛債務と売掛債権)のバランスを意識することが、会社の健全経営につながります。
 
さらに参照してください:
				
 