企業の決算書の中で、金額が大きくなりやすい項目のひとつが「退職給付引当金」です。しかし、退職給付会計の仕組みは複雑で、原則法や簡便法の違いなど、初めて学ぶ人にはわかりづらい部分も多くあります。
この記事では、退職給付引当金の基本的な意味から、原則法と簡便法の違い、どんなときに費用処理が必要になるのかまで、会計の実務経験をふまえてやさしく整理していきます。
初心者にも読みやすい構成にしているので、企業の経理担当者はもちろん、日商簿記や税理士試験の学習にも役立つ内容です。
退職給付引当金とは?
退職給付引当金とは、将来支払う予定の退職金や退職年金のうち、会計基準に基づいて「すでに発生している」と認められる金額を債務として計上したものです。
ポイントは次の2つ。
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将来の退職給付の支払いに備えた負債の一種
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会計基準に沿って、発生している部分だけを見積もって計上する
企業にとって退職給付は長期的な義務なので、どのタイミングで、どの程度の金額を費用として認識するかが重要になります。
退職給付会計と退職給付債務との関係
退職給付引当金は、退職給付債務(DBO)と密接に関係しています。
退職給付債務は「将来支払う退職給付の現在価値」であり、退職給付引当金は、その債務に対してどれだけ引当処理を行ったかを示すものです。
引当金は債務の全額を必ずしも計上する必要はなく、会計基準によって認められた方法に従って徐々に費用化していきます。
原則法を採用している場合
従業員300人以上の企業では、退職給付会計の「原則法」を採用するケースが多くあります。
原則法では、
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退職給付債務に対し、毎期100%の引当計上を義務づけてはいない
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引当が不足している部分は「発生理由ごと」に処理時期が異なる
という特徴があります。
例えば、以下はよくある発生要因です。
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数理計算上の差異
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過去勤務債務
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会計基準変更差異
これらは企業が採用した会計方針に応じて、複数年にわたり償却していきます。
つまり、原則法は柔軟で、会社の実態に合わせて費用をならして計上できる方法といえます。
簡便法を採用している場合
一方で、中小企業など従業員が少ない企業では「簡便法」を採用することが認められています。簡便法には大きな特徴があります。
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原則として、退職給付債務に対する退職給付引当金を毎期100%計上する
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不足額があれば当期の退職給付費用として処理する必要がある
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初年度に発生した会計基準変更差異は、翌期以降で費用処理が可能
つまり、簡便法は名前の通り「簡単で明快な方法」であり、引当金の不足を先送りにできません。
毎期きっちりと退職給付債務を反映する必要があるため、決算での費用計上が大きくなることもあります。
原則法と簡便法の違いをまとめると…
初心者でもイメージしやすいように、両者の違いをシンプルに整理すると次のとおり。
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原則法
引当不足額の処理タイミングに柔軟性がある。大企業で多く採用。 -
簡便法
退職給付債務を毎期100%反映。中小企業で利用されるケースが多い。
この違いを理解しておくと、貸借対照表(B/S)に表示される退職給付引当金の意味がより把握しやすくなります。
会計基準変更差異の扱い
退職給付会計の変更に伴い発生する「会計基準変更差異」については、原則法・簡便法どちらの場合も、翌年度以降に費用として処理することが認められています。
この差異は一度に費用処理すると多額の費用が突然発生してしまうため、実務負担と財務の安定性を考慮して段階的に処理できる仕組みになっています。
まとめ
退職給付引当金は、退職金に関する企業の長期的な義務を適切に見積もるための重要な項目です。
本記事のポイントをふりかえると、
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退職給付引当金は「将来支払う退職金の見積額」を負債として計上したもの
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原則法は柔軟性が高く、大企業に多い
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簡便法は退職給付債務を毎期100%反映し、中小企業で多い
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不足額は会計基準に従って費用処理する必要がある
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会計基準変更差異は翌年度以降に費用計上できる
退職給付会計は難しいテーマですが、ポイントを押さえるとB/SやP/Lの読み方がぐっとわかりやすくなります。
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